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大野はとにかくしつこかった。
松本が何度断っても 首を縦に降るまで諦めてはくれなかった。
いつもならキレそうになるこんなやり取りなのだが 大野の必死な姿に根負けし 結局今晩だけ厄介になることにした。
目の前にそびえる華やかなハイタワーマンション。
周りのビルより頭1つ分飛び出ているその建物の最上階が大野の自宅だという。
”マジか…”
松本は若干引いていた。
有名企業の社長となれば それなりの家に住んでるということはある程度 想像できたが ここまで”いかにも”な感じでこられるともう笑うしかない。
彼専用らしき駐車場にタクシーを停車させると 大野がササッと支払いを済ませる。
松本は そのカードがブラックだったのを見逃さなかった。
一般のエントランスを利用せず その駐車場からすぐの所にある最上階直通のエレベーターに乗り込む。
密室という空間も手伝って何となくお互い背中を向け合った。
先程から口数の少ない大野がチラチラとこちらを振り返る姿がガラスにうつる。
松本は 壁側に寄りかかり 夜景を眺めるフリをしながら そんな大野の様子を伺っていた。
ポケットに手を入れたり 緩めたネクタイを触ったりと落ち着かない様子だ。
松本は わざと気づいていないフリを決め込んだ。
”…面白いヤツ…”
金と権力を武器に パワー経営でのし上がっただけのボンボンぐらいにしか思ってなかったのだが こうして話してみるとまた違った印象が見え隠れした。
「着いたぞ…」
「何か いちいちスゲーな…」
「…なんてことは無い。親が用意したとこだし」
どうやらワンフロア全てを大野が所有しているようだ。
無駄にでかい玄関扉も まさかの”網膜認証”で松本は何だかだんだん楽しくなってきた。
「まぁ…そこら辺にでも座ってくれ…」
そこら辺がどこら辺なのかわからないくらい広いリビングに通され とりあえず自己主張の強そうなソファに腰を下ろす。
「なっ…何か飲むか…?」
「お構いなく…」
相変わらず大野は不自然なほど松本と目を合わせようとしない。
あれだけしつこく誘ってきた割には なんともイケずな態度だ。
「オレ ここで休ませてもらうよ。 朝いちで出るから」
「それはダメだ！」
「なんだよ いきなり」
キッチンに行きかけた大野が踵を返して駆け寄ってきた。
「ちゃんとベッドで寝ないと風邪をひくぞ！」
「…平気だって」
「そうだ シャワーを浴びろ なんだったら湯船に湯をはるか？」
「オイ ちょっ…!?」
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作者名：hikari | 作成日時：2020年6月6日 4時
