どうやら社長解放されたようです (ページ1)

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出会いページ1

昔何かの本で読んだことがある。
この世界は勝ち組の人間と負け組の人間とのちょうどいいバランスでつくられていてその優劣は産まれる前に振り分けられているのだと。

すなわち自分のこの経営能力は神から与えられたものであり今あるこの栄光は成すべくして成したものなのだ。

大野智は自社ビルの最上階にあるこの窓からの景色をとても気に入っていた。
地上であくせく働いているであろう人々をここから見下ろすことが何より好きだった。
有り余る富も力も持って生まれた自分は勝ち組中の勝ち組。
実は少し苦手なブラックコーヒーの苦味を噛み締めながら自分の恵まれた立場に酔いしていた。

日本有数の持株会社である[大野ホールディングス]現会長の長男。
大野智はその傘下であるホテル[ステイゴールド]の代表取締役社長としてその手腕を振るってきた。
前取締役の不祥事により経営が急激な右下がりに傾いていたホテルを見事なまでに再生し名だたる外資系ブランドホテルと肩を並べるまでの一流ホテルへと成長させてきた男である。
当時は若きこの社長の元で働きたいと多くの新卒者が殺到したものだった。

と……これだけ聞けば誰もが羨むパーフェクトな男に思われるだろうが大野には多くの社員と従業員を抱える経営者としては致命的な欠陥があったのだ。

「大野社長お時間です。」

ノックとともに社長直属の秘書である二宮和也が顔を出す。
今日は月一恒例の社長自ら出向くホテル視察の日であった。

「おおニノもうそんな時間か」

大野はそう言うと残りのコーヒーを飲み干し片端にあった上着に袖を通した。

「ニノではなく二宮です社長」

二宮は無表情で大野のネクタイの歪みを治しながら緊張感のないボスをたしなめた。

「今は二人しかいないんだからいいじゃないか。固いこと言うな」

「習慣化すると大事な場面でうっかり出るものです。アナタ先週の飯島社長との会食の時も私の事そう呼んでましたよ」

「ん…?そうだったか…？まぁあのタヌキ親父はそんなこと気にしないだろ」

「私が気になります」

メガネ越しにギロリと睨まれ大野は口をつぐんだ。
傍から見れば子供のように唇を突き出し不貞腐れるその姿はとても一流ホテルの社長とは思えないだろう。
今日の視察も何事もなく無事に終わってくれることを願うばかりだ。

二宮は本日何度目かのため息を密かに飲み込んだ。