11 ページ11
”とても美味しそうないい匂いがする…
そういえば今夜の夕食は食いっぱぐれたな…
というか最近 まともに食べてないし 夜も眠れてなかったかも…”
倒れる瞬間 絶対に地面に頭をぶつけるだろうなと思っていたのだが 何だか暖かくてガッシリとしたものに支えられた感覚があった。
とても心地よかったな…。
もう少しこのままでいたい。
しかし 無情にも大野の意識は現実世界へと引き戻されていった。
薄暗い天井に淡いオレンジ色の暖かい光が見えた。
カチャンカチャンと食器のようなものが重なる音が響く。
”ここは どこだ…？”
「やっとお目覚めか…」
「…ここは…」
「店。 ガッツリ倒れたアンタを抱えて 閉めたばっかの店にオレが運んだ」
大野はまだ少しボーッとする頭を持ち上げる。
見間違えじゃなければ 目の前で話しているこの男は 松本潤だ。
どうやら自分は店内の壁側に設置しているソファ席に横になっていたようだった。
「何か…いろいろ 迷惑をかけてしまったみたいだな…」
「そうだな。 病院に連れてった方がいいのか散々 迷ったけど まぁ…よく眠ってたから…」
松本は 無表情でそう言いながら テーブルの上に置いた小さなコンロの火をカチリと止めた。
可愛らしいサイズの鍋のフタを開けると なんともいえないいい香りが大野の鼻をくすぐる。
松本はそれを 手馴れた感じで品の良い平皿にキレイによそった。
その上に 薄くスライスされたトリュフを花びらのようにヒラヒラと舞い散らせトッピングしていく。
そのムダのない一連の動きがとても美しく 大野は見とれてしまった。
「食えよ」
リゾットだった。
「…いいのか…？」
「眠ってる最中 アンタの腹 グーグー鳴ってたぞ。 どうせまともに食ってなくて 貧血で倒れたんだろう」
「…何か…申し訳ない…いただきます」
突然倒れて介抱された上に 胃袋の方まで満たしてもらうとは…大野はいたたまれない思いでいっぱいだったが 背に腹はかえられない。
遠慮なく頂くことにした。
「…うまい……」
「当然だろ」
リゾットを一口 頬ばると 瞬間 まろやかな風味が口いっぱいに広がる。
「やっぱり…君が欲しいよ…」
「…気持ちわりぃな…」
松本はイヤそうに顔を歪めた。
傍から見れば 男が男に愛を囁いてるようにしか聞こえないセリフだが これは大野の心の声がそのまま出た ”彼の本音”だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 77人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：hikari | 作成日時：2020年6月6日 4時
