先生とアルタナ ページ13
｢先生、先生はいつから虚を知っているんですか｣
地球に戻る船の中で、僕は先生に尋ねた。
｢虚が虚になる前からです。私はあの男を、今のこの地球上で誰よりも昔から知っています｣
｢先生と双子みたいって、ただの比喩じゃないアルか｣
先生は頷いて話し始めた。
｢私が虚を……いえ、その時の虚はまだ虚でも、松陽でもありませんでしたから、便宜上彼と呼ぶことにしますが、彼を知ったのは、私がこの世に存在していると自覚した時です。私と彼は常に一緒に居ました。2人揃って鬼の子でした。
私と彼は人間から迫害を受けていたのですが、ある時彼は私を逃がそうとしたのです。しかし人間達は、そんな化け物逃げられては困ると思ったのでしょう、私を捕らえようとしました。
しかし彼の抵抗で私は何とか逃げたのです。私が攻撃される彼を見つめていた時、彼はひたすら『逃げろ』『生きろ』と言っていました。私は彼の守ろうとした私を守る為に彼を捨てて逃げました。
途中で力尽き倒れましたが、とある寺の方が助けてくれました。その方は『ずっとここに居て構わない』と言ってくれたのですが、私は人間が怖くて、憎くて、まともな理由も言い訳もせず逃げ出しました。
そこから私は誰1人の世話になることもなく、助けも借りず、1人で生きてきました。
彼の居た場所に戻ることはありませんでした。それは、彼の守りたかった私というひとを守る為、という口実で、心の奥底でもう戻りたくないと思っていたからです。
私は人間をひたすら避け続けたから、彼のように人格が分裂することもなく、心を無にしていました。
しかし憎みながらもどこかで焦がれていたのでしょう、その内、人間のように小屋に住み着いてみたり、畑を耕してみたり、人と関わることはありませんでしたが人の生活の真似事をしていました。
彼よりもずっとまともな日々を送っていたから、私が私でいられ続けたのでしょう。
松陽と、銀時と会ったのはそんな頃です……が、この話はまた別の機会に｣
銀さんは語られたくないらしくちょっと不貞腐れた。
｢先生はいいんですか｣
｢何がです｣
｢中身が違うとはいえ元は自分を助けてくれた存在を倒すなんて｣
｢中身が違いますから彼と虚は別物です。それに、私の今の大切なものたちを壊そうとするのなら誰であっても容赦するつもりはありません｣
先生ははっきりと虚と戦う運命を見つめていた。そして虚を倒して僕達の地球を、宇宙を守ることを決意していた。
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作者名：風寧 | 作成日時：2019年10月13日 2時
