大切な人をさがしています

32 You ページ32

過去編


私と北斗がちょうど十歳になる頃かな。




北「おれ明日から父さんの手伝いで漁に出るんだ！」




浜辺を駆け回ったり貝殻を拾ったりして遊んでた帰り道、
北斗が嬉しそうに私に言った。




『そうなんだ。すごいね、頑張ってね。』







なんて。



本音を言えば、


北斗だってまだ私と同じ子どもなのに？

危ないよ、行かないで、こわいよ。


そう言ってしまいたかった。



だって北斗のお父さんが家に来るときはいつも怪我してたから。



豪快に笑ってはいたけど、
傷だらけになってあちこち痛いなんて言いながら、
ボロボロの作業着を家に持ってくる。




大人でさえそんな痛い思いしてるのに、
子どもの北斗が行ったらどうなってしまうのだろう。

ちゃんと無事に帰って来られるの？




だけど目の前で
早く一人前になるんだ！なんて前向きに意気込んでいる北斗を見たら、

そんな足を引っ張ること言っちゃだめなんだって、
応援しなきゃいけないんだって思って。


あんまり思ってないこと言って、
足元に伸びる石畳の道をうじうじ眺めてた。




北「…なんだよ、もっと喜んでよ。」




私はいつも北斗に隠し事ができない。

並んで歩いていた道を北斗は少しだけ小走りして、
私の前で通せんぼするみたいにこっち向いて腰に手を当ててる。




『……北斗が怪我するの、こわい。』

北「あー、父さんよくけがしてるもんね。」

『海は危ないってよくおかあさんが言ってた。』

北「そりゃあ、漁ってのは命懸けのもんだから。」




北斗だってまだ漁に出たことはないはずなのに、
そう得意げに言うのはお父さんの仕事が誇らしいからなんだろう。

だったら尚のこと、応援してあげなきゃいけない…。



だけど、




『もし…、もし北斗が帰って来なくなっちゃったら…！』




あぁ、

それだけは本人言っちゃいけなかったはずなのに…

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