52＿ ページ2
·
彼は私の隣に座った。
「ずっと、話したかった」
懐かしいその声が、私に向けられて、耳に届いた瞬間、あの頃の思い出が息を吹き返して、光を浴び始める。
「…今までどこに居たの？」
「そういう話、全部させて？」
「うん…」
あの冬休み。
元々あまり仲睦まじくはなかった両親の喧嘩が耐えなくなり、悪化していった。
部活に行ったり、電話したりなんて、とても出来る状態じゃなかった家。
大晦日の日。
母は置き手紙もなにもなく、本当に僅かな荷物だけを持って、姿を消した。
それによって、更に苛々が募っていた父は、新年早々、飲酒運転と暴行で逮捕された。
新聞の隅に小さく掲載された父の名前を見ても、哀れだと思うだけで、特に何も感じなかった。
祖母に引き取られることになり、父も逮捕されたりしていたので、学校に顔も出さないまま、誰にも言わずに転校。
携帯なんてとっくに料金滞納によって使えなくなっていた。
そうして、新年三日目の朝、東京を去った。
別れも言えないまま。
想いを募らせたまま。
話し終えた彼は泣いていた。
私はただ、やるせない気持ちでいっぱいだった。
「大阪の高校は普通に卒業してん。勉強めっちゃ頑張って、東京の大学に進んだんよ」
「そっか。ねえ、さっきの子って、彼女？」
「え、ああ…うん…」
「そっか、可愛い子だね」
私は今、上手く笑えていないに決まっている。
·
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 64人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みなみ(プロフ) - ゆん°さん» ここまでありがとうございました！！！ (2017年5月15日 21時) (
レス) id: 53336b01a0 (このIDを非表示/違反報告)
ゆん°(プロフ) - 読んだよ〜！完結おめでとう！！ (2017年5月15日 21時) (レス) id: 5c49c99a1a (このIDを非表示/違反報告)
みなみ(プロフ) - ありがとうございます！そう言って頂けるととてもやる気が出ますし、嬉しい限りです。これからも更新ペースは遅いかもしれませんが、物語を丁寧に紡いでいけるように頑張りますので応援よろしくお願い致します！ (2017年5月5日 20時) (レス) id: 53336b01a0 (このIDを非表示/違反報告)
はまやん(プロフ) - みなみさんの世界観が好きです、言葉遣いが綺麗で、比喩の部分とか素敵だと思います。切なさが文に表れていて心が揺らされます。好きです。忙しいとは思いますが頑張ってください。 (2017年5月5日 20時) (レス) id: 140c01c743 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みなみ | 作成日時：2017年4月9日 15時
