48＿ ページ48
·
重岡くん。
もう彼女でも何でもないのに、何故か気にしてしまった。
そんな私をよそに、父は言う。
「急に結婚なんて言われても大変かもしれないから、二人で話でもしてみたらどうだ？
�霤帖�二人をどこかの店にでも連れて行ってくれ」
「分かりました。では、二人共行きましょう」
社長室を出て三人で廊下を歩く。
誰も何も話すことは無かった。
·
車に乗って、近くの料亭へ。
個室に通されると、あとは二人で、と言って、はまちゃんは部屋を出て行ってしまった。
気まずい空気の流れる部屋。
すると、小瀧さんが一度鼻を啜って、言った。
「ごめんな、急に。それに、俺なんかで」
「いえ、それは私こそ」
「あ、敬語なんかじゃなくてええで。俺達、同い年やから」
「そうなんだ、ありがとう」
小瀧くんの口から出た関西弁に、少しびっくりした。
「俺達のことはもう決まったことやし、変えられへん。俺達は親の言いなりになるしかないんやろ。子供の頃からそうやった」
「私も。ずっと言いなりだったの。自由が欲しかっただけなのに」
「やっぱりそうやんな、俺達みたいなのは。本当に欲しい物が手に入ったことなんてない」
「そう…」
「あ、でもな、今日急に親から結婚してもらう相手を紹介するって言われて、めっちゃ緊張してたし、嫌やってんけど、でもAちゃんは話しやすいし、めっちゃ良い子やったから安心した！」
そう言って私に微笑みかけた小瀧くんの笑顔は、さっきまでの愛想笑いとは違った、ように見えた。
でも、小瀧くんは優しいからこう言ってくれているだけ。
本当は苦しいはず。
彼の笑顔を見ていると、辛くなった。
その後、小瀧さんは自分の事を話してくれた。
私と同じ大学一年生で、将来的には会社を継ぐと決まっていること。
幼少期は大阪に住んでいたこと。
小瀧さんの会社は私達の会社の大きな取引先で、今回は親達が勝手に話を進めていたこと。
他にも色々話したけれど、とても話が合って、本当にいい人なんだなと思った。
彼との時間は、ただ温かくて。
いつもの癖で、外を見てみると、春と夏の真ん中みたいな太陽が私に微笑みかけた。
小瀧くんの笑顔を見る度に、話が弾む度に、
重岡くんがちらついた。
·
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 72人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みなみ | 作成日時：2017年3月7日 13時
