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その車のドアが開き、私の嫌いな人のシルエットが見える。
「…あの人誰?」
「…お父さん」
重岡くんの瞳からは輝きが消えて、諦めが見えた。
「A、こっちに来なさい」
「ちょっと待って、」
「いいから早く」
重岡くんを見ると、行って、と口パクで言われた。
小さく頷いて、草むらを急ぎ足で登る。
「帰るぞ」
「うん…」
家までの道を走る車内の空気は最悪だった。
誰も一言も話さなかった。
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「まず、着替えてきてください。」
家へ着くなり、お手伝いさんに服を渡される。
制服が土だらけだったことを思い出して、頷いた。
どうして父がいるんだろう。
そう思ってお手伝いさんに聞くと、仕事が早く片付いて、三ヶ月間の予定だった海外出張から、一ヶ月半ほどで帰ってこれたらしい。
こんな不運な偶然なんてあるものなのか。
絶望で倒れそうだった。
着替えてくれば、リビングのソファにゆったりと座って煙草を吸う父が居た。
お手伝いさんに促されて、その前にそっと座る。
「…あの、お父さん、」
「あれは誰だ?」
「クラスの、友達…」
「どうしてあんな時間まで一緒に居るんだ」
「…それは、あそこの景色が綺麗だから一緒に見に行こうって…それで、」
言い訳を必死に考えて話そうとすると、父のため息と目の前を覆う白い煙に遮られた。
「最近お前の帰りが遅いことは聞いていた。
そいつと一緒に居たんだろう?気付かないとでも思ったか?」
「…それは、」
「その人は、どこの会社の息子さんなんだ?」
「…普通の家の人…」
「そんなやつとお前を一緒に居させる訳にはいかない」
「どうして…、」
「お前は山下の名を背負ってるんだ。それを片時でも忘れるな」
父の言葉が私に重くのしかかる。
このまま、この不条理な世界の底まで沈んでしまいたい。
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作者名:みなみ | 作成日時:2017年3月7日 13時