僕らの寮部屋はストーリーと恋で詰まってます (ページ37)

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第36話ページ37

千秋side

「あの後、千秋ったらドアの前で力尽き
ちゃって。熱が下がらずに数日間寝込んでたよね」

「懐かしい。それいつの話？」

「高校生の頃でしょ。千秋ボケたの？」

「ボケるには早すぎるって」

「そうだね。天才売れっ子小説家様がボケたなんてなったら悲惨だから」

あれから数年経ち、社会人になった今でも杏との交際は続いている。
僕達の暮らす地域では同性婚が許されていない。

でも、いつか許される日が来たなら、その時には―――

「あ、千秋だ」

【今年の芥川賞受賞作家、楓元花先生にお話を伺いました】

【こんにちは】

【こんにちは。楓元花です】

【この度は芥川賞受賞おめでとうございます！】

【ありがとうございます】

この前、僕はついに夢だった芥川賞受賞作家になることが出来た。

【芥川賞受賞作品である『僕らの寮部屋はストーリーと恋で詰まってます』は楓先生の恋愛経験を元に書かれた作品なんですよね】

【はい。私改め僕と恋人である梓の高校時代の話を元に生まれた作品が僕恋です】

【主人公の感情表現が繊細で、男女共に共感を呼んだ名作ですよね】

【ふふっ。ありがとうございます。作品にある通り、私は恋愛感情というものを知りませんでした。それを教えてくれたのは梓で、今も私の傍でアシスタントとして支えてくれている彼女には感謝しかありません】

【同性愛を題材にした作品が芥川賞を受賞するのは初のことであり―――】

「千秋、本当に良かったの？自分が同性愛者だって公表しちゃって」

「うん。僕は自分を偽ってまで生きたくないから」

同性愛へ嫌悪感を持つ人や、僕自身が同性愛者ということを公表するなという声もあった。

でも、僕が今ここにいられるのは全て杏のおかげだ。
杏が教えてくれた恋愛感情が、僕をここに立たせてくれた。

「杏は僕の自慢のナイトだよ」

「今日の千秋は甘えただね」

「良いでしょ？受賞式でお疲れのお姫様を労わってよ」

「もちろん。お疲れ様、千秋」

僕達の物語の舞台は寮部屋から同棲するマンションの一室に移ったけど、物語はまだしばらく続いていく予定だ。

次回作を出す時には僕達の関係性の名前が変わっているだろう。

僕達の寮部屋はストーリーと恋で詰まってました。

物語は僕達がこの世を去るまで永遠に続いていくだろう。

その時が来たら、僕達の軌跡を遺したこの本を手に取って欲しい。

『楓元花』