第15話 ページ16
千秋side
「着いたよ！」
「ここ……」
杏に手を引かれてやってきたのは、遊園地スペースにある大きな観覧車だった。
「僕、千秋と観覧車に乗りたかったんだ。ダメ、かな……？」
何故か少し不安そうに聞く杏の誘いを断る理由なんて無かった。
「夕焼けが綺麗だね」
「うん」
対面で座りながら、窓の外の景色を眺めた。
夕焼けに染まる海のオレンジを見ながら、今日一日のことを振り返った。
安っぽい恋愛小説じゃないけど、杏とのデートは正に『夢のような時間』だった。
「千秋、今日はありがとう！おかげで、すごく楽しかった！」
「杏に楽しんでもらえたなら良かった」
「あ！もうそろそろ頂上だね！」
杏の言葉に下を向くと、ゴンドラが頂上付近に来ていることが分かった。
「長いようであっという間だったね」
「うん」
何だか、少しセンチメンタルになった。
「寂しいな」
「え？」
「……ううん！何でもない！」
らしくないことを口走ったなと後悔した。
情けない。
「千秋」
「どうしたの？杏……」
俯いていた顔を上げると、視界が暗くなった。
そして、唇に温かく柔らかい感触を感じた。
優しく香る杏の香り。
甘いのに甘すぎない、爽やかな香り。
しばらくは何が起こったのか分からなかったが、ようやく理解した。
僕、杏にキスされたんだ。
そっと離れていく感触に、口が物寂しくなった。
「あ、杏ったら……！また遊んで……」
笑いながらそう言おうとしたが、杏の目を見て何も言えなくなった。
杏の目は、笑ってなかった。
そこからは何故かお互い黙り込んで話さなくなった。
そのまま、ゴンドラは僕たちを地上に降ろしていった。
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作者名：月羽and月翼 | 作成日時：2020年12月30日 0時
