【Chapter１：あのお方こそ全て】 ページ3
害するつもりは無かった。
ただ触れてみたかっただけだった。
触れて、撫でてみて、あまりに愛おしかったから
もっと___________________
『っは、』
学舎の側の高い塔。
人ひとり余裕をもって暮らせそうなその塔の一室で、一人の青年が目を覚ます。
ああ、とんでもない夢だ。
彼はまとわりつくような悪寒を振り払おうと暖炉へと向かい、椅子に深く腰掛けた。
前後に揺れる椅子に身を任せると、塔の唯一の出入り口である大きな窓から差した月明かりが、壁に描かれた見事な絵を照らす。
夜明けには時間がかかりそうだった。
彼、もといAは一度起きては眠れぬ性分であった。
仕方なく顔を洗い、式典服に袖を通す。
A用に特注で作られているそれは裾の部分が少し長く、マジカルペンの為のチャームもない。
ペンの代わりのバングルをはめると、魔法石が彼に呼応した様に少し光った。
ディアソムニアより深い色合いの緑色の魔法石は、彼がどの寮にも属さない事を表していた。
部屋にいてもしょうがないと、Aは塔から出る。
空中浮遊魔法で身体を浮かせ、塔の大きな窓から出るとまるで縄で降りる様にゆったりと地上に着いた。
この魔法を習得するまでは箒での出入りが難しかったものだ、と彼は微笑する。
塔から少し行けば校舎だ。
NRCは夜中のトレーニングや鏡を使って友人の寮に遊びに行くケースを考慮し、基本は全ての扉を開けている。
否、防護の結界を過信していると言った方が良いか。
「あら、生徒会長さんこんばんは。こんな夜分にどなたかへ御用かしら？」
壁に掛かった貴婦人の絵画がAに親しげに声をかけた。
『こんばんは。少し眠れなかったもので、本日の入学式に向けて少々準備をと思いまして。』
表情こそ固いものの、彼の声は実に穏やかなものであった。
「まあ！まだ食堂のゴーストさんが朝食の準備を始めるまで二時間もあるわ！
私達、みんな貴方のことを尊敬しているけど、無理をして欲しいわけじゃないのよ？」
『大丈夫ですよ。後に生徒会室で仮眠を取る予定です。』
あまり健康的でない唇から紡がれる言葉に貴婦人は眉を顰めつつ、彼に部屋に帰るつもりが無いのを悟った。
「そうなのね。でも、本当に無理はダメよ？」
『善処しましょう。それでは。』
Aは一瞬苦笑を浮かべて生徒会長へと向かう。
寂しげな廊下に、彼の靴の音だけが静かに響いた。
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桔梗(プロフ) - あおいさん» コメントありがとうございます！大変励みになります。これからも本作をどうぞよろしくお願いいたします。 (2月17日 21時) (
レス) id: 8a1a5efa6e (このIDを非表示/違反報告)
あおい - コメント失礼します！とても面白いです！！素敵な作品をありがとうございます！お体に気をつけて更新頑張ってください！ (2月16日 20時) (レス) id: 63ae223e49 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：桔梗 | 作成日時：2024年2月12日 23時
