【スプレーマムの花束を貴方に2】 (ページ32)

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78輪目ページ32

二人の会話をぼんやりとする頭で聞いていると、不意に声をかけられる。
「亜麻野。」
「…キャプテン、私…。」
何を言えばいいのか分からなくて思わず俯いてしまう。

「赤司。先に行っててくれ。」
「…分かりました。」
「悪いな。」
足音が遠ざかっていく。虹村さんと、二人きりだ。

「まずは顔を上げろ。」
「…はい。」
彼の言葉に顔を上げる。真っ直ぐな瞳が私を捉える。

「気にすんなって言っても、お前は気にしちまうんだろうな。」
「…私、キャプテンに助けてもらってばかりで。キャプテンは大変なのに…頼って、ばかりで。自分が不甲斐ないです。」

どんなに辛い状況でも、キャプテンとして引っ張ってくれていた虹村さん。自分の不甲斐なさと、彼がキャプテンでなくなってしまう事実が淋しくて。涙で視界がぼやけるのを感じた。涙とともに熱が失われていくのを感じる。

「亜麻野…。」
「すみません。キャプテンの方が大変なのに。」
泣いちゃいけない、泣き止まないと。

目元を擦ろうとした瞬間、温かなものに包まれる感触を感じた。
ー抱きしめられているのだと理解するまで、そう時間はかからなかった。

「キャプテン…？」
「俺はお前に支えられてるよ。一生懸命で、優しくて、そんなお前に応援されるともっと頑張んなきゃなって思えるんだ。」
「そんな…こと。」
優しく話す虹村さんに言葉が詰まる。

「合宿のチャーハン、嬉しかったんだぜ。いつもは作る側だったからな。」
「私…。」
「お前は俺の可愛い後輩で、立派なマネージャーだ。だから…これからのバスケ部を頼むぞ。」
柔らかだけど凛とした声に胸が熱くなる。

大好きな、尊敬する"先輩"に応えなきゃ。

「っ…はい！皆を、バスケ部を精一杯支えます！」
「よし！」
にかっと笑う彼。

回されていた腕がするりと離れていく。
消えていった体温が戻っていく。

「じゃ、体育館に行くか。」
「はい。…あの、大変なときはいつでも言ってください。私にできることなら何でもしますから。」
体育館に向かおうとする彼に伝える。

せめて、少しでも虹村さんの背負っているものを軽くしたいから。

「…お前は本当に健気で可愛いやつだな。」
「わっ。」
頭をくしゃりと撫でられる。温かくて、大きな手だった。

その後もとりとめのない話をしながら体育館に向かった。
ー"先輩"と居られる時間を噛み締めながら。

虹村さんの存在は大きかったのだ。
私にとっても、部にとっても、『灰色』の彼にとっても。