【何も】刀剣乱舞【聴こえない】

聴こえない* ページ34

鶯丸ver.


耳にさくっ としたパンの音が響き、思わず頰が上がる。
噛む、飲む、そんな1つ1つの動作が懐かしくて、出来ることが嬉しくて。
ふっ と自分の皿に視線を戻すと、そーせーじ が無くなっていた。
横を見れば鶴丸の箸の先端には、そーせーじ が。



「…それは俺の そーせーじじゃないか」
「今まで籠って来て、バチが当たったんだよ。


お前が出てこなくて、俺はずっ と暇だったぞ」


そう言ってぱくり と俺のそーせーじ は薄い唇に吸い込まれていった。
そうか と言えば、目の前に座る髭切の箸から目玉焼き が半分 送られてきた。
…これは、もしや……プレゼント交換というものか。
初代の主がクリスマス にしていたものと同じ、あの。
呆気に髭切から貰った目玉焼き半分を見ていると、
髭切がふふ と笑いながら



「さっきのはバチが当たったけれど、バチが当たった次は必ず良いこと があるって言うからね」


「…兄者、実は目玉焼きが嫌いだったのでは」
「断じて違うよ、弟丸」


そうか と呟きながらまた食べ始める膝丸をちらり と見やり、しー と人差し指をあてて俺達に合図する髭切。
鶴丸は笑みを隠しきれずに口元を覆っている。
人の子はというとそんな俺達を見た後、嬉しそうに髭切と笑い合っていた。
こんな、こんな朝餉はいつ振りだろうか


あんなに笑った鶴丸を見るのは、いつ振りだろう。
髭切や膝丸が、楽しそうに揶揄い合っているのを見るのは、いつ振りだったろうか。
こんなに綺麗な人の子を見るのは、何年振りだ？
思い出すのは1人 部屋に籠って、何も口にせず、ただ座って耐えていた記憶のみ。
たまに三日月に会いには行っていたが、
そんなのも数回程度。
外に出たら、審神者に会う確率が跳ね上がる
興味はない物など、目に入れたくない性分なんだ。


真っ暗な部屋に、1人
どんよりした暗闇に、1人
話しかける相手もいなければ、話す相手もいない。
何かを言葉にすれば、それは黒洞々たる闇に吸い込まれていくのみ。
そんな、日常だった
そんな、日々だった



「……主の飯は、上手いだろ」
「…ああ、上手い」


そう言えばにしし と悪戯っ子の様に笑い、他の奴らにもこの驚きを提供したいんだ と呟いた。
…お前は切り替えが早く、そして無茶が多い。
その度に三日月と俺はどれだけ面倒を見てきたか、お前は知らんだろう。
それは、今となっても変わらないもんなんだな



「そうか。…実は俺もそう思っていたんだ」

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