132 ページ35
マッチの箱を両手で持ち、感謝を述べるために左を向く。
『助けてくれて、ありがとう。』
膜の向こう側にいるみんなを見て、自然と頰が緩んだ。
表情の種類で言えば、カイさんの最後の笑顔と近しいかもしれない。
まあ、見えないから何とも言えないが。
「ふん、別に見てて腹が立っただけだ。」
素直じゃないアリスさん。
「Aさんが苦しんでるのを見るの、嫌だったんです………。」
目尻が赤くなったカンナちゃん。
嬉しいけれど、もうこれ以上心配をかけるわけにはいかない。
「………それじゃあ始めるよ。」
最初とは打って変わって不貞腐れたノエルが、最後のアトラクションの開始の合図を口にした。
頑張ろう、私が二人の代わりになる。
彼処へ…的へ、行かないと。
的に縛られた少年と大男を見て、マッチの箱を持つ手に力が入った。
まず私がするべきことは、Qタロウさんの説得だ。
Qタロウさんが許可しなければ、私が手紙を燃やしても意味がない。
何とかして毒針の発射までに説得して変わってもらわなければ。
とりあえず受け取ったマッチの箱の中身を確認すると、一本だけマッチが入っていた。燃やす時に、変な失敗はできないな。
上にある鑑賞室の方からは、レコさん、ナオさん、サラが話し合う声が聞こえてくる。あの三人もさっき、私を心配して上から覗き込んでくれていた。
………嬉しいなぁ。
「A姉ちゃぁん………。」
ギンくんが、薄っすらと涙の膜を貼りながら私の名前を呼んだ。
大丈夫、助けるからね。
さっきはできなかった笑顔を、頷きながら少年に向けた。
一昨日一緒に入った、アトラクションの時のように。
少しだけ、ギンくんの目から恐怖の色が薄まった。
「三人で考えれば…きっと、どうにかなるハズです!!」
「頼むぜよ、お前ら…!!なんでもいい…!!閃いてくれ……!!」
「制限時間は短いよー。せいぜいがんばってねー。」
機嫌が直ったのか、直ってないのか。
それはよく分からないが、落ち着いた様子のノエルが抑揚のない声で言い放った。
おそらくQタロウさんは、ギンくんと交換することも躊躇うし、私と交代することも躊躇う。生きようと必死にもがいているけれど、そもそもあの人は子供に優しい。
はい、どうぞ。と簡単に私に立場を譲ることはしないだろう。
さて、一体どうしたものか。
179人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
でででででん(プロフ) - 匿名さん» ありがとうございます!なんとか5月中に2章完結目指して頑張ります。笑 (2020年5月20日 23時) (レス) id: ff25803fe7 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 何度もコメントすみません…今日更新多くて嬉しいです…!(( お体にはお気をつけて!これからも楽しみにしています! (2020年5月20日 22時) (レス) id: cc998c0500 (このIDを非表示/違反報告)
でででででん(プロフ) - しきさん» え?そう言ってくれて嬉しい… (2020年5月16日 7時) (レス) id: ff25803fe7 (このIDを非表示/違反報告)
しき(プロフ) - え?表紙好き… (2020年5月16日 1時) (レス) id: 0c957ac632 (このIDを非表示/違反報告)
でででででん(プロフ) - 匿名さん» ありがとうございます…! (2020年5月14日 21時) (レス) id: ff25803fe7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:でででででん | 作成日時:2020年4月28日 9時