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「あれ……どうして見せてくれないの?」
『………』
何も答えずに、今必要なことだけを考える。
私にとって一番大切な事は、マフラーを外さないことによる“私自身への疑い”じゃない。“マフラーの下を見られない事”だ。
そのためには、目の前のソウさんから逃げなければいけない。
「首輪、つけてないの?」
『……』
ソウさんが立っている場所は、ちょうどドアの前。
私が此処から逃げる事はとても難しい。強引に出ようとしたところで、きっと捕まる。その場合、私は力がないので、この人を振り切るのは難しい。
無理にマフラーを取られたら私の負けだ。
どうしようかと考えていると、ドアの向こうから微かに足音が聞こえた。こちらにゆっくりと近づいてきている。
けれど、ドアの前にいるソウさんに気づいた様子はない。
これだ。
『もちろん、つけてますよ。私だって他の人と同じ参加者なんですから。』
「ふーん………じゃあ、どうしてキミはその手を動かさないの?」
あと数歩。
『何でって……嫌だからですよ。ソウさん、人のスペースにズケズケと踏み込んでくる人は嫌われちゃいますよ?』
「Aさん……今大事なのは、それに踏み込んでもお互いを知る事だとボクは思うな。」
……来た。
時間稼ぎはお終い。私の勝利を確信してほくそ笑んだ。
鈍い音を響かせて、扉の向こうにいる彼女がドアがノックした。
「……ソウさん、やっと見つけましたよ!!もう、一人でどこかに行かないって約束したじゃないですか!!あ、居留守をしても無駄ですよ!カンナ、バッチリ声を聞きましたから!!」
「あ……あぁ、ごめんよ。ちょっと気になることが……」
ソウさんは、カンナちゃんの登場に驚いていて、完全に私から注意を逸らした。カンナちゃんがこの部屋に入れない事を知っているらしく、ソウさんが扉を開けて向こうの通路へと出て行く。
これでこの話題は途切れた。
私もあの扉を開けて通路に出る。
「Aさん。こんばんは!」
『こんばんは。私、夕飯まだだからさ……ソウさんをよろしくね。ソウさんと一番仲が良いの、カンナちゃんだからさ。』
「はい!私がしっかりソウさんのこと、見ておきます!!」
ソウさんは、眉をひそめて私のことを見ているだけだった。
うやむやに出来て良かった。
カンナちゃんとソウさんに精一杯の笑顔を向けて、私はその場を離れた。
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でででででん(プロフ) - 匿名さん» ありがとうございます!なんとか5月中に2章完結目指して頑張ります。笑 (2020年5月20日 23時) (レス) id: ff25803fe7 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 何度もコメントすみません…今日更新多くて嬉しいです…!(( お体にはお気をつけて!これからも楽しみにしています! (2020年5月20日 22時) (レス) id: cc998c0500 (このIDを非表示/違反報告)
でででででん(プロフ) - しきさん» え?そう言ってくれて嬉しい… (2020年5月16日 7時) (レス) id: ff25803fe7 (このIDを非表示/違反報告)
しき(プロフ) - え?表紙好き… (2020年5月16日 1時) (レス) id: 0c957ac632 (このIDを非表示/違反報告)
でででででん(プロフ) - 匿名さん» ありがとうございます…! (2020年5月14日 21時) (レス) id: ff25803fe7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:でででででん | 作成日時:2020年4月28日 9時