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部屋にもどり、マフラーを外して椅子に向けて乱雑に投げた。
ベッドに倒れこんだ私を、柔らかなマットレスが受け止める。
“自分で時間を決めて、その時間だけは踏み出すと決めるんです。”
頭の中で、ミシマ先生の言葉が流れる。
あの日、怖くて動けなかった。
でもそれは、“私が死ぬ”ことが怖かったんじゃない。
ただ…死んで、誰にも悲しまれないんだと思うと、それがひどく怖かった。
自分という存在が、無意味だったと嘲られている気がして。
あの日。
足を浮かせる直前、思い浮かんだのは兄の葬式。
殆どの人が深く悲しみ、泣いていた。
私が死んだら……あんな風に、誰かに悲しんでもらえるんだろうか。あの家族のことだからきっと私の葬式なんて家族間で適当にすませるだろう。
私の死を悲しんでくれそうな妹は遠くの地にいるし、兄も……もう家にはいない。
高校の友達や先生には、私の事…ちゃんと連絡がいくんだろうか。
兄弟以外の家族には、やっと死んだと笑われるんだろう。
椅子に登るまでは何も考えずに行動していたけれど、登った瞬間それらのことがグルグルと頭を回った。
それで、臆病な私は……椅子から足を宙に浮かせられなかった。
『あれ、反対側だったかな。』
ポケットに手を突っ込むと、ジャラジャラと音がする。
反対側のポケットに手を突っ込み、ハンナキーから貰った薬を取り出す。
なんとなく薬を天井に掲げて見回した後、薬を指で押し出す。
それから薬を口の中で噛んで飲み込んだ。
この薬は即効性のものだったらしく、すぐに意識がまどろみに溶け始める。
「それでは、おやすみなさい。」
『はい……良いアドバイスを、ありがとうございました。』
「そんな、良いアドバイスだなんて……ただ自分がやっている事を教えただけです。」
画面の向こうの先生は、照れ臭そうに頭をかいていた。
頭をかく音も、リアルだな…と、あの時思った。
『先生に悩みを聞いてもらえて……心が軽くなった気がします。』
「それは良かったです。それではもう夜も更けてきましたし…そろそろ眠った方が。」
どこから出したのか時計を表示させて、先生は私を促す。
『そうですね…おやすみなさい。また、明日。』
「ええ……さようなら、Aさん。」
どうしてあの時、さよならって言ったんだろう。
また明日………でも、良かっ…たのにな………。
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でででででん(プロフ) - ぁぃぅぇぉさん» (ニッコリ) (2020年8月19日 6時) (レス) id: ff25803fe7 (このIDを非表示/違反報告)
ぁぃぅぇぉ - 待って最初のやつポルナレh...やっぱなんでもありません (2020年8月19日 5時) (レス) id: 4f6210d2fe (このIDを非表示/違反報告)
でででででん(プロフ) - キミ死好きさん» 分かってくれる人がここに…!!ありがとう。 (2020年4月22日 10時) (レス) id: ff25803fe7 (このIDを非表示/違反報告)
キミ死好き - まぁあの笑顔みたいな顔iPadの壁紙にしてるから分かるよ (2020年4月22日 10時) (レス) id: bf60227ed4 (このIDを非表示/違反報告)
でででででん(プロフ) - キミ死好きさん» レコの生存ルートで、アリスがボンゴを渡した時に発生する最後のイベントが本当に好きなので……ごめんなさい。 (2020年4月21日 9時) (レス) id: ff25803fe7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:でででででん | 作成日時:2020年3月30日 19時