第432話 迷妄の姫君 ページ8
「さ！ そろそろ試合始まるよ、モコナ！」
「うん！」
『小狼』たちが出かけた後の家で、家事をあらかた済ませた一人と一モコナは、今日も今日とてテレビの前を陣取っていた。
それから間もなくいつもの試合が始まったのだが、どうやら今回はフィールドに特殊なギミックが取り入れられた様子。
「なんか周りがイバラで囲まれたんだけど」
「トゲトゲしてて痛そうだね……『小狼』たち、大丈夫かな」
心配そうに画面を見つめるモコナに、Aは「きっと大丈夫だよ」と声をかけることしかできない。
そうこうしている間に試合が始まった。
今回の相手は白い仮面をつけた連中だが、戦力は互角どころか明らかにこちらの方が上。
これなら今日も勝てるだろうと信じていたAの期待は、しかし容易に裏切られることになる。
敵チームの武器の先端から火花が散り、『小狼』がイバラの壁へと吹き飛ばされたのだ。
棘だらけのそこに背中から衝突した彼は地面に落ち、そのまま動かなくなった。
身体の下からは赤い液体がじわじわと広がってフィールドを侵食していく。
「『小狼』！！」
Aはソファから腰を浮かせ、声が届かないことも忘れて叫んだ。
思わずきつく両拳を握りしめたその隣で、モコナも目に涙を溜める。
黒鋼とファイは『小狼』の元へ駆け寄ろうとしたけれど、それと時を同じくして敵の武器の先端から小さな虫のようなものが飛び出した。
長刀で二等分にされても飛び続けたそれは彼らの首と腕とをそれぞれ掠め、小さく傷をつけた。
かと思えば、二人がいきなり膝をついた。
あの虫にも何かが仕込まれていたのだろうが、黒鋼とファイが動けなくなったのはきっとそれだけが理由ではない。
「もしかしてサクラ、迷ってる？」
元々、賞金を小狼が訪れたあの世界の復興に役立てたい、という理由でチェスへの参加を持ちかけてきたのは彼女。
その提案にA含む全員が賛同して、この状況に至るのだ。
しかし今、盤上には傷ついた仲間たちの姿。
このまま試合を続けても勝てる保証はないし、何より仲間たちがもっと傷つくことになる。
だから優しいサクラは躊躇っているのだろう。
そして、そんなマスターの迷いが駒の動きを鈍らせている。
「……待て」
そんな時だった。
テレビから彼の声が聞こえたのは。
「……勝つ。だから……そこにいろ」
チェスフィールドに設置されたカメラは、傷だらけながらも武器を取って立ち上がった『小狼』の姿を映し出していた。
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白野 - 最初から一気に読んでしまうくらいとても面白かったです！続きを楽しみにお待ちしています！ (2021年11月3日 22時) (
レス) id: 9415252d02 (このIDを非表示/違反報告)
輝石 コハク(プロフ) - まめさん» コメントありがとうございます！ 1から10まで一気に！？ ありがとうございます、そしてお疲れ様です！ しかも読みやすいと言って頂けるとか重ね重ねありがとうございます！！ まだ28巻中の半分を超えたぐらいなので、これからもお付き合い頂けると幸いです！ (2020年5月15日 16時) (レス) id: 75674cf5a0 (このIDを非表示/違反報告)
輝石 コハク(プロフ) - あゆさん» 長らく音沙汰なしでごめんなさい！ 色々あって時間を取れずにいましたが、完結させると豪語した以上は少しずつでもお話を書き続けていきますので！ 筆が遅い分内容も丁寧に……なるかは分かりませんが、よろしければこれからもお付き合いください！ (2020年5月15日 16時) (レス) id: 75674cf5a0 (このIDを非表示/違反報告)
まめ - はじめから一気に読みました！！とても面白くてすいすい読めました！更新頑張ってください(* ´ ▽ ` *) (2020年5月12日 17時) (レス) id: dd4ecb1951 (このIDを非表示/違反報告)
あゆ - 復帰(？)、おめでとうございます！ (2020年5月9日 18時) (レス) id: 3afd599366 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：輝石 コハク | 作成日時：2019年4月15日 22時
