第450話 あわやリタイア危機一髪 ページ26
豪快かつ盛大な衝突音が響き渡ったのは、Aが懐から杖を抜き盾を張ったコンマ数秒後のことだった。
やがてその余韻も消え去った頃、もうもうと上がる砂煙の中で、Aはへたりと地面に座り込む。
「モコナ、ごめん。怖かったよね」
「ううん。Aなら助けてくれるって信じてたもん。だから平気だよ」
「……そっか」
ごめんね、ともう一度口にして、Aは肩の上で震えている小さな身体をそっと撫でた。
固まってしまった自分が情けなくて腹が立つ。
創術も魔術も、いざという時に使えなければ意味がない。
だって、あの声がなかったら。
あとわずか創術の発動が遅れていたら。
今頃は。
「
Aが悔しさと苛立ちに歯を噛み締めていると、心の底からの焦りを感じさせる声が耳に届いた。
盾を張れと言ったのと同じ声、おそらく車の運転手だろう。
そういえばあの車はかなりの勢いで“守りの盾”と衝突したはずだが、運転手は無事なのだろうか。
今更ながらその考えに至ったAは、大慌てで盾を解除する。
果たして晴れた砂煙から現れたのは、かなりの勢いで盾に衝突したはずなのに傷一つない車だった。
「ああ、よかった。無事みたいだね。Aも、その子も」
そしてその運転席から顔を覗かせたのは、一人の
見た目は多少変わっていても、それが誰であるのかAにはすぐ分かった。
相変わらずふわふわな亜麻色の髪と、外見年齢を上げても残る顔立ちの幼さ、もとい可愛らしさ。
着ているブラックスーツが似合っているかは正直微妙だが、あれはまさか飛王の趣味なのか……などと真剣に考えている場合ではなかった。
演技でない本気の安堵を顔ににじませ、こちらを見てほっと胸をなでおろす、彼は。
「蓮翠！」
モコナがその名を呼んだと同時、Aは下ろしかけた杖を構え直した。
取り戻した記憶にはまだいくつかの穴がある。
もう一人の幼馴染に関わる全てと、過去の自分が魔女に願った内容。
そして、この蓮翠について。
実のところ、Aは彼こそが件の幼馴染ではないかと疑っているが、それとこれとはまた別の話。
たとえ助けてくれたのだとしても、昔の自分に縁ある者である可能性があっても、警戒は解かない。
以前に何があろうと、今の自分は「小狼たちの仲間」のAなのだ。
だから。
「なぜ、あなたがここにいるの。蓮翠」
何かあれば、今度こそ。
せめてモコナだけでも守ってみせる。
第451話 貴方は一体誰でしょう？→←第449話 急げ急げと急かされるままに
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 51人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白野 - 最初から一気に読んでしまうくらいとても面白かったです！続きを楽しみにお待ちしています！ (2021年11月3日 22時) (
レス) id: 9415252d02 (このIDを非表示/違反報告)
輝石 コハク(プロフ) - まめさん» コメントありがとうございます！ 1から10まで一気に！？ ありがとうございます、そしてお疲れ様です！ しかも読みやすいと言って頂けるとか重ね重ねありがとうございます！！ まだ28巻中の半分を超えたぐらいなので、これからもお付き合い頂けると幸いです！ (2020年5月15日 16時) (レス) id: 75674cf5a0 (このIDを非表示/違反報告)
輝石 コハク(プロフ) - あゆさん» 長らく音沙汰なしでごめんなさい！ 色々あって時間を取れずにいましたが、完結させると豪語した以上は少しずつでもお話を書き続けていきますので！ 筆が遅い分内容も丁寧に……なるかは分かりませんが、よろしければこれからもお付き合いください！ (2020年5月15日 16時) (レス) id: 75674cf5a0 (このIDを非表示/違反報告)
まめ - はじめから一気に読みました！！とても面白くてすいすい読めました！更新頑張ってください(* ´ ▽ ` *) (2020年5月12日 17時) (レス) id: dd4ecb1951 (このIDを非表示/違反報告)
あゆ - 復帰(？)、おめでとうございます！ (2020年5月9日 18時) (レス) id: 3afd599366 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：輝石 コハク | 作成日時：2019年4月15日 22時
