第444話 唐突和解回想録 ページ20
ーーファイ。貴方にとって生きる事は苦しい事だと思う。でも…それでも、生きていてほしい。
痛みではっきりしない意識の中、その言葉を聞いた。
驚きはなかった。
これまでのAを見て、こうなることはある程度予想がついていたからだ。
ファイが彼女の事情を理解しているように、Aもこちらの事情はある程度分かっているはず。
それでも彼女が自分の死を望むとは思わなかった。
だが、その選択に納得しているかといえば、答えは否であった。
この旅が予定調和にならないことはAが参加した時点で明らかだったし、事実、今までにも何度か“本来の流れ”を大きく逸脱しているはずだ。
彼女の選択を今更咎めようとは思わない。
ただそれでも、聞かなければ気が済まなかったのだ。
『どうしてオレを死なせてくれなかったの』
アトリアを発った後。
二人きりになったタイミングで、あの世界では聞くことの叶わなかったことを尋ねた。
なんとしても答えを聞くつもりで。
しかし、何故か問われた側のAは困ったような──「答えられない」ではなく「質問の意味が分からない」と言いたげな表情を浮かべた。
『私はこれからもファイと一緒に旅がしたい。だから生きていて欲しい。それだけなんだけど』
たくさんの死を見て、たくさんのものを失った。
だから“もう”失いたくないし、死んでほしくない。
それが大切な人なら尚更。
語りながら前の国を思い返していたのだろう、Aの微笑みには、確かな意志が感じられた。
旅を始めた頃には見られなかった顔だ。
彼女の成長をつい親のように喜ばしく思ってしまう心を、表に出さぬよう押し込める。
『ダメだ。オレがいると皆が不幸にーー』
『そう？ 私はファイといて不幸だと思ったことないけどな。むしろ逆じゃない？』
たとえば美味しいご飯。
魔術について話すひと時。
仲間も交えた楽しく、たまにふざけたりする会話。
ほら、少し考えただけでこんなにも出てくるでしょ。
指折り数えて他にも色々挙げてくれるAに、ファイは豆鉄砲を食らった鳩のような顔になる。
もしかすると。
自分でどれだけ否定しても、その度に「そんなことはない」と言ってくれるのだろうか。
距離を置いても、そんなものは知ったこっちゃないと“今まで通り”を続けてくれるのだろうか。
『Aちゃんはオレといて、幸せなの……？』
『もちろん』
呟きに力強い頷きが返ってきた瞬間、ファイは心の中で完敗だなと独り言ちたのだった。
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白野 - 最初から一気に読んでしまうくらいとても面白かったです！続きを楽しみにお待ちしています！ (2021年11月3日 22時) (
レス) id: 9415252d02 (このIDを非表示/違反報告)
輝石 コハク(プロフ) - まめさん» コメントありがとうございます！ 1から10まで一気に！？ ありがとうございます、そしてお疲れ様です！ しかも読みやすいと言って頂けるとか重ね重ねありがとうございます！！ まだ28巻中の半分を超えたぐらいなので、これからもお付き合い頂けると幸いです！ (2020年5月15日 16時) (レス) id: 75674cf5a0 (このIDを非表示/違反報告)
輝石 コハク(プロフ) - あゆさん» 長らく音沙汰なしでごめんなさい！ 色々あって時間を取れずにいましたが、完結させると豪語した以上は少しずつでもお話を書き続けていきますので！ 筆が遅い分内容も丁寧に……なるかは分かりませんが、よろしければこれからもお付き合いください！ (2020年5月15日 16時) (レス) id: 75674cf5a0 (このIDを非表示/違反報告)
まめ - はじめから一気に読みました！！とても面白くてすいすい読めました！更新頑張ってください(* ´ ▽ ` *) (2020年5月12日 17時) (レス) id: dd4ecb1951 (このIDを非表示/違反報告)
あゆ - 復帰(？)、おめでとうございます！ (2020年5月9日 18時) (レス) id: 3afd599366 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：輝石 コハク | 作成日時：2019年4月15日 22時
