坂口(妹)【文スト】 (ページ5)

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そうだ、思い出した。太宰はスッキリした様子だった。あれ以来彼女と会ったのは一度だけ。その一度だって、少し顔を会わせただけで、長い時間一緒にいた記憶はない。織田は良く会っていたらしいが。彼は子供好きだったし尚更だろう。

しかし、五年あまりでこうも変わるのか、と少し考える。電話を切ったであろう彼女は少し唇を尖らせ拗ねたような表情をしたあとそれを鞄に突っ込んだ。電話の相手は恋人ではなく、兄であるということが分かった。これは嫌がらせ出来るのでは？太宰の口角が上がる。太宰はベンチから立ち上がり、公園を出ようとする彼女の肩を掴んだ。

｢やぁ、Aちゃん。久しぶり。｣

｢………は？｣

包帯まみれの男に突然肩を掴まれ、突然名前を呼ばれたらそんな反応にもなるだろう。当たり前だ。

｢おや、私の事忘れてしまったかい？と言っても、最後に会ったのは五年前、君が学校から下校する途中にたまたま会ったきりだったものね。織田作は多忙な安吾に変わって、よく君を連れ出してやっていたらしいけど。私も途中まで気づかなかったよ！｣

怒涛の勢いでペラペラと一人で話す太宰を不振そうに見ていた彼女だが、兄と織田の名前が出た途端に目を見開き｢もしかして…｣と呟いた。

｢太宰さん……でしたっけ？｣

｢おぉ！正解！大中り！｣

｢お久しぶりです。｣

｢ホントだよ〜！いや〜にしても綺麗になったね〜……私と心中しない？｣

｢は？｣

｢いや、その目は結構傷つくんだけど。｣

まるで虫でも見るかのような冷ややかな目に、流石の太宰も傷ついたらしい。普通の女性ならもう少し困った顔をするというのに…と。

｢……私に何か？｣

｢いいや、何も。たまたま見かけたから声を掛けたのさ。どうだい、私とお茶でも。｣

｢間に合ってます。｣

｢安吾に振られちゃったんだろう？せっかくお洒落したのに、勿体ないじゃないか！用事が無くなってしまったのなら、私と共に逢引(デート)すればいいんだよ！｣

｢逢引は大袈裟ですね。｣

｢とにかく、行こうじゃないか！何も悪いようにはしないから安心してくれたまえ！｣

｢あ、ちょっと……！？｣

戸惑う彼女の手を掴んで、無理やり喫茶店へと連れ込む。一方のAは、突然なんなんだと戸惑いを隠せていない。なんなら頭が痛くなってきた。これは諦めた方がいい。何かあったらその時はその時だ。彼女は一瞬のうちに冷静さを取り戻した。