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「『私たちの知っている葉ちゃんは、とても素直で、よく気がきいて、あれでお酒さえ飲まなければ、いいえ、飲んでも、……神様みたいないい子でした。』」





あとがきの最後の一文を読み終わり、彼女は静かに本を閉じた。それは、広報官(リップマン)が最後に読んでくれた小説だ。葬儀の後、彼女は拠点でエリスにその本の続きを読み聞かせていた。何か本の読み聞かせをして欲しいとせがんだ筈のエリスは、詰まらなさそうに頬杖をついている。





「姉様ってば、どうしてそんな本を読むの?もっと楽しい絵本を読めばいいのに!」

「だって詰まらないんだもの。お話自体は素敵よ?でも、内容が子供っぽすぎて、私には逆に理解が出来ないわ。」

「君くらいの理解力があれば、さらりと理解をしてしまいそうだけどねぇ。」





同じくそれを聞いていた森は、「それにしてもAちゃんの声は聞き取りやすくていいね〜!録音して子守唄にしたい!」などと騒いでいる。





「御伽噺なんていつも退屈なんだもの!最後には絶対に魔女が悪役にされて殺されてしまう。人魚姫なんて酷いものだわ。自分が約束を守れなかったのが悪いのに、全部魔女のせいにするの!それに私、英雄(ヒーロー)よりも悪役(ヴィラン)の方が好きよ!」

「おや、それはどうしてだい?女の子は可愛らしいお姫様に憧れて、いつか素敵な王子様と結婚したいと思うものだろう?」

「だって、英雄は私を守るために世界を敵に回してはくれないわ。でも、悪役は私を守るために全てを敵に回すでしょう?どんなにかっこいい英雄でも、愛する人を守れないなんてすっっっっごくダサい!それに、御伽噺の王子様たちはお馬鹿が多すぎるわ。みーんな頭がお花畑!誰しもがみんな一目惚れをするのよ?おかしな話!」





彼女はぽいと本を放って、詰らないと言った様子で足をパタパタと動かした。きょとんとしていた森は、声を上げて笑った。





「あっはっは!Aちゃんは実に現実的な主義なのだねぇ!では、Aちゃんは自分を守ってくれる悪役のような人がいいわけだ。」

「そうよ!別に私だけを守れとは言わないわ。自分の大事なもののために闘える人がいい!」

「姉様って、やっぱり変わってるのね。でもそんな所も好きよ!」





エリスは彼女に抱きついて、すりすりと頬擦りをした。その様子をしっかりと己の目に焼き付ける森。今頃、ヴェルレエヌと太宰が密会している頃だろうか。

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作者名:花蛸花 | 作成日時:2022年4月10日 12時

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