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近づいてきた車の、後部座席の窓がゆっくりと降りて、中の人影が｢中也｣と声をかけた。太宰だった。珍しい姿だ。黒い背広を着て、
｢あと五分で仕事だよ。｣
｢兄様！｣
Aが笑顔で手を振れば、太宰も手を振る。
｢Aも一緒に連れて行ってあげたいけど、君は今から拠点に帰るんだよ。｣
そう言って、太宰は後ろに着いてきていた黒い車を指さした。
｢えぇ〜！！｣
｢これから会うのは英国政府だ。今会わなくても、彼らが調査に入れば嫌でも顔を会わせるさ。それもこれも、交渉がうまくいけばだけどね。もしもがあると危険だよ。｣
｢またそうやって兄様は私を除け者にしようとする〜！｣
｢別にそんなつもりはないんだけどな〜〜｣
太宰は空いた窓から顔を出し、腕に顎を置きながら困った顔で言った。
｢でもいいのかな〜？とっても素敵なお知らせがあるのに。｣
｢え、なに？｣
｢君がここ最近ずっと会いたがっていた"あの人"に会わせてあげようと思ってね。勿論、栄光高き調査団のお歴々が帰ったあとだけど。｣
｢ほんとに！？｣
Aが途端にきらきらと目を輝かせる。食いついた食いついた。太宰はそんな事よりも、Aが可愛くて仕方が無い所だが、今は時間が無い。もう既に、船がそこまで見えてきている。
｢本当だとも。森さんとも相談してね、君が気に入れば、彼の監視役は君に任せてもいいと言ってくれたよ。｣
｢おい、それ大丈夫なのかよ？｣
｢彼女は優秀だ。問題ないよ。あの人だって手を出す気は無いだろうしね。どう？僕達に着いてくるかい？それとも、拠点に帰る？｣
｢帰る！中也、抱っこして！車まで連れてって！｣
｢抱っこなら僕がするけど！？｣
｢うるせぇ手前はさっさと降りてこい。｣
中原はAを抱えると、太宰の乗っていた車の、すぐ後ろに着いていた黒い車の後部座席に彼女を乗せた。運転席には横光がいる。本来なら運転出来るような歳ではないが、それはそれ。
｢お嬢さんを頼むぞ、利一。｣
｢中也さんもお気を付けて。｣
扉を閉めて、横光の運転する黒い車を見送った。ここからは、太宰と調査団の楽しい騙し愛の時間が始まる。
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作者名：花蛸花
| 作成日時：2022年4月10日 12時
