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今のAを、森Aをという女を知る人間が見たらなんというだろうか。まず最初に、腰を抜かすだろう。いつも凛としていて、つかみどころがない。頭が良く、すらすらとその場その場にあった作戦を言葉として表していく。誰よりも黒くて闇の中の住人だと言われた方が納得が行く。そんな彼女が今、あんなにも嫌っていた男の腕の中で、目に涙を浮かべながら言葉を探っていた。まるで幼い子供のよう。あぁ、まだ子供らしい一面が残っていたんだ。太宰は安堵した。彼女にまだ残された、人間らしさに。





「……辛かった……私は、いつでも、……貴方に着いていくつもりだったのに………私は、そんなに易々と、貴方を裏切るように、貴方の考えを否定するように見えたの……?」

「違う、違うんだよ………余りにも危険すぎたんだ………闇の中の住人が光の世界で暮らすなんて、余りにも………」

「それでも、良かったのに……一言くれるだけで、一目会いに来てくれるだけで、違ったのに………っ、」

「ごめん、……私が悪かったよ………こんなにも苦しめていたんだね……気付かなくてごめんね……」





異端な頭脳を持って生まれた、マフィアになるべくして生まれた男。そんなもの唯周りが勝手に付けただけのものだ。何が天才だ。何が異端だ。妹が傷つくかもしれない、苦しめるかもしれない。その程度の事も分からないで、何が兄だ。太宰は何度も自分を責めた。ぽろぽろと涙を流す彼女の背を撫でながら、太宰の頬にも一筋、涙が毀れる。

彼女だけが自分を人間にしてくれる。愛する妹は、私に人間らしさを与えてくれる。幽鬼と恐れられた少年を、唯の十五歳の少年にしてくれたのは、間違いなく彼女だった。





「A、……もう一度、もう一度兄妹になろう……次こそは、きっと………」

「………無理だ、………私には、森さんを裏切れない………」

「いいんだ、いいんだよそれで、君は間違いなく森Aだ、……君にとって、私が兄であればそれでいい………私は、君が胸を張って兄だと言える人間になってみせる……きっとだ、約束するよ、………Aの為ならなんだってするから、……」

「…………にいさま、……兄様………」





何度も、何度も、彼女は「兄様」と繰り返した。今までの時間を埋めるように。太宰は、「うん、うん」と何度もそれに頷いた。



何度だって返事を返そう。君が満足するまで___



今目の前にある幸せに、太宰は、笑を浮かべながら涙を零した。

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かが(プロフ) - とっっっても感動しました!今まで見てきた小説の中で1番好きです!父親を倒した辺りからあまりの感動に涙がでました😭それぐらい素晴らしい文才をもっているなんて羨ましいです!これからも投稿頑張ってください!応援してます!☺️ (2023年2月4日 20時) (レス) @page32 id: 04a276ffbb (このIDを非表示/違反報告)
なぴあ - 太宰さんと夢主の掛け合いが大好きです!!!何故太宰さんと同じ事をする夢主ちゃん? 過去編も読ませていただいてます!! 投稿頑張って下さい!! (2022年3月29日 17時) (レス) @page36 id: bc58708f8e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:花蛸花 | 作成日時:2022年3月21日 11時

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