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「私には薄汚れた翠と血塗れの赤しか見えないね。」
「それは残念。まぁいいよ。私達が分かればそれでいいさ。」
森はそう言って、二人に外に出るようにと指示を出した。二人は頭を下げ、医務室を後にした。
「却説……何から話そう。話がまだ纏まっていないようだ。」
森は困った様子で眉を下げ、笑った。そんな彼を横目に、彼女は手鏡を反対側のサイドテーブルの上に置いて、口を開いた。
「お父様が私の手術をしてくれた話、聞いたよ。」
「あらまぁ、話のお早いこと。」
「手術ミスされなくてよかったと心底思うよ。何年ぶり?」
「手術刃はよく握るんだけどね。開腹は久々だよ。少なくとも首領の座に着いてからは殆どないね。」
「それで良くぞまぁ……」
「元より、失敗するつもりなんてなかったよ。自分の娘一人助けられなくて、父親なんて名乗れないからね。」
森は足を組んで、その上に手を重ねた。目を伏せて小さく笑う。そんな森を見ながら、彼女は暫の間の後再び口を開く。
「貴方は確かに私を娘としてくれた。私のことをそれなりに大事にしてくれていたことも。でも、それは組織の利益のためだとずっと思ってきた。」
「え、もしかして伝わってなかったの?ほんとに??嘘でしょ???」
「今真面目な話してるところなんだけどな。」
「こっちも結構真面目なのだよ?私、これでも君のことは何よりも大事にしていたのだけど………いや、君に伝わっているとばかり………」
森は少し唸ったあと、小さく息を吐いて困ったように笑った。
「すまない、私の責任だね。君は賢いから、言わなくても、口に出さなくても分かると思っていた。でも、そうだね………あぁ、やはり、口に出さないと伝わらないものだね。態度だけでは伝わらない事もある。」
森は酷く後悔した。元々、自分でも気がついて居たのかもしれない。ちゃんと口に出して、その気持ちを言葉として彼女に伝えるべきなのでは、と。然し、なんと言っていいか分からなくて、娘を持つ父親の気持ちになることなんて今までなくて、結局、彼女ならきっと分かってくれると甘えてしまった。その結果がこうして現れている。
これではダメだ。父親として、父親らしいことをしないと。森は、小さく笑いながら顔を上げた。
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かが(プロフ) - とっっっても感動しました!今まで見てきた小説の中で1番好きです!父親を倒した辺りからあまりの感動に涙がでました😭それぐらい素晴らしい文才をもっているなんて羨ましいです!これからも投稿頑張ってください!応援してます!☺️ (2023年2月4日 20時) (レス) @page32 id: 04a276ffbb (このIDを非表示/違反報告)
なぴあ - 太宰さんと夢主の掛け合いが大好きです!!!何故太宰さんと同じ事をする夢主ちゃん? 過去編も読ませていただいてます!! 投稿頑張って下さい!! (2022年3月29日 17時) (レス) @page36 id: bc58708f8e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花蛸花 | 作成日時:2022年3月21日 11時