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「お前にとって、マフィアは居場所だ。それでいい。それでいいんだ。お前にとっての最愛がマフィアである事は、少しも可笑しくない。愛する者がそこにある。それだけで十分幸せじゃないか。」
織田は彼女を否定することをしなかった。彼女が彼女で居られる場所は、確かにマフィアにあった。血の繋がらない父親は、血の繋がり以上の絆で、親子として結ばれている。仲間もいる。優秀な部下もいる。彼女にとって、もうそこが居場所だと定着してしまっているのだから、それを引き剥がすことはきっと出来ない。
「お前はそれでいい。只、辛いならそう言え。きっと皆がお前を助けてくれる。人に助けを求めることは恥じゃない。信じるための第一歩だ。だから、まずは人を知るんだ。お前なら、絶対に出来るさ。」
「………そう、か………分かった………そうしよう、……」
彼女はそう呟いたあと、「織田作さん……」と、ぽつりと彼の名前を呟き、言葉を続けた。
「ごめんね、……約束を、破ってしまって。」
「………気にするな、と言ってやれない。然し、それはお前の生きる術だ。俺の考えを押し付ける心算もない。」
「銃を教える代わりに、ひとつ約束してくれ。これはお前の身を守る為の術。俺の教えた銃で、人を殺さない事。俺は人を殺すために、お前に銃を教えるわけじゃない。」あの日の言葉は鮮明に思い出される。あの日の約束を破った事、後悔しなかったわけじゃない。然し、今となっては、引き金を引くことを厭わなくなった。
「結果的に、俺の教えた銃はお前を守れている。それで、俺は十分だ。」
「………あぁ、貴方は………やっぱりお人好しすぎる………」
その時、少しずつ気が遠くなっていく気がした。あぁ、もうこの幸せな時間も終わるのかと、確信してしまった。
「時間だ。お前を待っている人が、お前が目覚めることを心待ちにしているだろう。早く行ってやれ。」
「おださくさ、……」
「また、いつか会おう。」
ぼんやりと、彼の背後に、懐かしい子供たち、若手会の青年たち、そして最愛の母の姿が見えた。笑っている。優しく微笑むように。
「太宰もお前も、早死しそうで怖いな。余り早くこっちに来るなよ。」
織田もまた、優しく微笑んでいた。あぁ、死にたいのに、死にたいはずなのに、生きたいと思ってしまう。矛盾に矛盾が重なって、思わず笑ってしまいそうだ。
あぁ、幸せな夢が終わる。彼女は、ゆっくりと目を閉じた。
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かが(プロフ) - とっっっても感動しました!今まで見てきた小説の中で1番好きです!父親を倒した辺りからあまりの感動に涙がでました😭それぐらい素晴らしい文才をもっているなんて羨ましいです!これからも投稿頑張ってください!応援してます!☺️ (2023年2月4日 20時) (レス) @page32 id: 04a276ffbb (このIDを非表示/違反報告)
なぴあ - 太宰さんと夢主の掛け合いが大好きです!!!何故太宰さんと同じ事をする夢主ちゃん? 過去編も読ませていただいてます!! 投稿頑張って下さい!! (2022年3月29日 17時) (レス) @page36 id: bc58708f8e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花蛸花 | 作成日時:2022年3月21日 11時