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「こころ………?」

「あぁ、そうだ。お前は、俺が死んだ時、少しでも辛いと、苦しいと思ってくれたか?」





織田の言葉に、彼女はあの日のことを思い出す。息が出来なくて、苦しくなって、世界が色褪せて見えたあの日。胸の奥が苦しくて、でも涙が出なくて、その苦しみは増すばかりだった。慰めてくれる兄も居なくて、その日はずっと尾崎と中原が傍にいてくれたのを覚えている。





「太宰が消えた時、お前は何を思った。」





兄が消えた時。世界が酸化して見えた。家族に捨てられて、心のどこかでは辛いと、そう思っていたのかもしれない。眉をひそめ、ぎゅっと唇を噛む彼女を、織田は優しく撫でてやった。





「それだ。それが感情だ。それが苦しさだ。辛さだ。お前が、いつでも胸の奥に潜めてしまっているものだ。お前に足りないものは、それなんだ。誰かを頼ること、信じること。それがお前に今必要なものなんだ。」

「私に、必要なもの……?」

「そうだ。人間には必ずしも感情が必要だ。」

「………そのために、私は……私は、どうすればいい………?」





いつの日か、彼女の兄が零した言葉と同じだった。あぁ、この二人は、血よりも深い絆があるんだ。それに、織田は少し口角を上げた。





「まず他人を信じ、他人を知ることからだ。だから、少しずつでいい。己を知るために、誰かを知るんだ。お前ならきっとできる。大丈夫だ。」





彼の大丈夫は、いつでも安心できた。昔からそうだ。彼が大丈夫と言うのなら、きっと大丈夫なのだろう。そう思ってきた。結果的にどうであれ、彼の大丈夫は何よりも信用できた。





「そして、お前と太宰の事だ。俺はあの日、あいつに人を救う側になれと言った。彼奴には、善も悪も大差ないのだと。大差ないのなら、人を救う方が幾分か素敵だと。それが、結果的にお前たちを引き離す原因になってしまった。悪いと思ってる。でも後悔はしていない。」

「………分かってる、分かっているよ。織田作さんは何も間違ってない。人を殺めるより、人を救う方がずっと素敵だ。でも、私には、それはきっとできない………私は、私の父を裏切るなんてできないよ………」





震えた声だ。今にも泣きそうな、子供のような声。織田は彼女の頭を撫でて、「それでいい、お前はお前でいい」と呟いた。

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かが(プロフ) - とっっっても感動しました!今まで見てきた小説の中で1番好きです!父親を倒した辺りからあまりの感動に涙がでました😭それぐらい素晴らしい文才をもっているなんて羨ましいです!これからも投稿頑張ってください!応援してます!☺️ (2023年2月4日 20時) (レス) @page32 id: 04a276ffbb (このIDを非表示/違反報告)
なぴあ - 太宰さんと夢主の掛け合いが大好きです!!!何故太宰さんと同じ事をする夢主ちゃん? 過去編も読ませていただいてます!! 投稿頑張って下さい!! (2022年3月29日 17時) (レス) @page36 id: bc58708f8e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:花蛸花 | 作成日時:2022年3月21日 11時

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