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彼女はまじまじと太宰の顔を見詰め、口を開いた。
『あの子は貴方と出会えて幸せだった。母親の私が言うんですもの、そうに決まってるわ。唯ね、あんなにも愛情を受け取る事が、彼女にとってはなれない事だったの。貴方のことを信じていない訳じゃない。信じ方が分からないの。だからね、人の信じ方を教えてあげて欲しいの。貴方の気持ちをそのまま彼女に教えてあげればいい。簡単なことじゃない。でも、貴方はあの子の兄だもの。きっと出来るわ。』
Aに似たその笑顔を浮かべ、彼女はそう言った。満足したのか、今度はAの頬を包むように撫でると、小さく笑った。
『可愛い娘………私のためにありがとう。貴方は、沢山の仲間と、部下と、愛する人に囲まれて、きっと幸せな筈なのにね。幸せの感じ方を教えてあげられなかった私の責任かもしれない。貴方を守ってあげたいけど、私はこれきり。だから、私の代わりに夜叉が貴方を守ってくれるわ。
…………貴方たちに、娘を託します。幸せを、沢山教えてあげてね。』
彼女は最後に、彼らの顔をぐるりと見渡した後、翡翠色の文字列に包まれ、消えていった。
「あぁ、………君は愛されているんだね。」
腕の中で眠る我が子に、森は笑いかけた。「太宰くん」と、森が声をかければ、太宰は今度こそ彼女の身体を抱えあげた。大事なものを、壊れ物を扱うかのように。
「………森さん。この子は確かに貴方の娘だ。この子がそう認めたからね。でも、私もこの子を諦める訳にはいかない。この子は、確かに私の妹なんだから。」
「それで構わないよ。君たちが誰よりもお互いを大事にして、誰よりも愛し合った、仲睦まじい兄妹だと言うことを、私が一番よく知ってるからね。」
太宰は暫く彼女の顔を見詰めた後、踵を返した。
「敦くん、車の扉を開けてくれるかな。」
「は、はい、!」
「私は探偵社に向かうから、中也くん護衛を。」
「承知しました。」
「他の者は撤収。怪我人は救護班に預けるんだよ。動けるものは消火活動に移るんだ。山火事にでもなったら面倒だよ。構成員達にも伝えるんだ。確か、水を使う異能者が居たね。」
そんな会話を背に、太宰と中島は森の中へと入っていく。何も話さない太宰に、中島はちらりと目を向けると、眉を寄せ、唇を噛む姿が目に入る。込み上げてくるものを耐えているようだった。
何も言うまい。中島は、もう一度前を向いた。
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かが(プロフ) - とっっっても感動しました!今まで見てきた小説の中で1番好きです!父親を倒した辺りからあまりの感動に涙がでました😭それぐらい素晴らしい文才をもっているなんて羨ましいです!これからも投稿頑張ってください!応援してます!☺️ (2023年2月4日 20時) (レス) @page32 id: 04a276ffbb (このIDを非表示/違反報告)
なぴあ - 太宰さんと夢主の掛け合いが大好きです!!!何故太宰さんと同じ事をする夢主ちゃん? 過去編も読ませていただいてます!! 投稿頑張って下さい!! (2022年3月29日 17時) (レス) @page36 id: bc58708f8e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花蛸花 | 作成日時:2022年3月21日 11時