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ある日、正和は泣きながら明司に縋ったのだ。彼が泣いている姿なんて見たことがなくて、明司は困惑したのを今でも覚えている。母親を暴力的な父親から助けてやれない不甲斐なさ、妹を守ってやれるのだろうかと言う不安。

母親からの言いつけ通り、妹を庇い、母親が殴られている姿を呆然と見ているだけの自分を責める正和に、当時の明司はなんと声をかけてやればいいのか分からなかった。まだ家族になったばかりの母親だったが、もう成人もしてしまった正和のことを本当の息子のように可愛がり、必要以上に世話を焼いて何とか心を開いてくれるようにと自分に歩み寄ってくれた母親。そんな母親を正和は大事に思っていた。

それ以上に、妹であるAのことを命よりも大事にしていた。母親が死んでからは、その暴力はAへと向けられた。正和はと言うと、もう社会人になるんだから甘えるなと父親に家を追い出されてしまい、仕方なく実家を離れることになっていた。それでなくとも警察官という多忙な職業に就いてしまっていたものだから、実家へはおろか自宅にすら帰れていなかった。

たまに会う妹は自分に笑顔を向けて快く出迎えていてくれたのだと、彼は話していた。その後、明司は反社の道を選んでしまったので、彼女達がどうなったのかを少しも知らなかった。彼の弟である三途がこの一連の流れを知らないのは、彼が当時まだ子供だったからだ。





「………殴られてんのか。」

「……………」

「………………腕、見せてみろ。」





彼女の腕を優しくつかみ、その袖をゆっくりと捲る。そこには痛々しい程の痣が複数あった。この調子だと腹や背中も同じだろう。足はどうかは分からないが、顔に傷は付けられていないようだ。仮にも警察のお偉いさんがするようなことかね、と明司は眉をひそめた。





「………痛てぇか?」

「少し……」

「………警察とか児相とか行ってみたか?」

「………行っても、どうせお父さんがお金でもみ消しちゃうし、」

「……そうか……A、辛いなら俺のところに来るか?」

「……え?」

「お前を、養子に迎える。」





明司は至って本気だった。彼女の父親を納得させるだけの金なんていくらでもある。幼馴染である正和が残した、命より大事な宝。せめてそれだけでも守ってやりたかった。しかし、彼女はゆっくりと首を横に振った。

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かのん - 竜ちゃんの心の声が荒れてて面白過ぎるwww (2022年1月15日 12時) (レス) @page47 id: 23ecb5b22b (このIDを非表示/違反報告)
やまだ(プロフ) - あれれ?竜胆さんしれっと春千夜がヤク中ってバラしちゃったよ?((゜ㅇ゜)??? アレェ?竜胆さん? (2021年10月16日 3時) (レス) @page47 id: 4fca3f24b6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆぽぽ(プロフ) - 蘭さん好きぃぃぃぃ!!!!そして竜胆面白すぎるw w w (2021年10月14日 20時) (レス) @page43 id: 908e4168b8 (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - 竜胆の心の声が面白すぎますwwwwww (2021年10月14日 15時) (レス) @page43 id: 947326f28f (このIDを非表示/違反報告)
絶狼(ゼロ)(プロフ) - 面白いですゲラゲラ笑ってしまいました。最新では思わず竜胆ォォォwwwwwwと変な声が出てしまいましたこれからも頑張ってください応援してます (2021年10月14日 14時) (レス) @page43 id: 1a90028617 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:花蛸花 | 作成日時:2021年9月26日 3時

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