前髪と息子-5【呪術廻戦】 (ページ27)

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あれから一度も訪れることのなかった幸穂の墓の前にしゃがんで、彼女の好きだった花を手向ける。線香に火をつけてもくもくと上がる煙を見ながら、小さく息を吐いた。

あの日、自分がすぐ側にいれば、警戒していれば。何度思ったことだろうか。何度後悔しただろうか。

｢………A？｣

｢………あの時、非術師だからと油断したのが間違いだったんだ。逆恨みなんて、術師をやっていれば必ず一度はある事だろうに。｣

こんな姿、きっと叱られてるだろう。誰も悪くないでしょ！！私の墓の前で辛気臭い顔すんな！！なんて背中を力強く叩かれる。そして、彼女は笑うんだろう。そんな姿ももう見られないと言うのに、今になって考えてしまう。

眉間に皺を寄せるAに、夏油は眉を下げた。

｢非術師を信じすぎた私の落ち度だ。｣

｢それは違う。お前は何も悪くない。……幸慶も、実幸も、雅火も………お前たちは何も悪くないんだ。｣

｢いいや。……非術師が嫌いだと、ずっと思っていた。それでも信じていたかったんだ。同じ人間だから。……でもそんな甘い考え、早くに捨ててしまえば良かったんだよ。………害のない人間なんて、この世には一人もいない。｣

夏油は何も言えなかった。

仲間をなくした悲しみは計り知れないだろう。術師という険しい道の先にあるのは、術師(なかま)の屍。かつては父に憧れて、絶対に術師になるんだと意気込んでいた少年は、術師の険しく厳しい現実を突きつけられていた。

あの頃は知らなかった。苦しみ、後悔、そして絶望。その積み重ねで大人になる。今彼は、大人になっている途中なのだろうか。

｢…………｣

ポロポロと流れ出てくる涙を隠すように俯く彼の頭を優しく撫でる。彼女が死んだ時も泣かなかったのに、今になって涙が出てきた。

｢………父さん。｣

｢………ん？｣

｢………わたし、また非術師を守りたいと思えるかな。｣

｢…………思えなくたっていいさ。お前が守りたいもののために戦えばいい。私たちの敵はいつまで経っても変わらず、"呪い"なんだから。｣

｢…………うん。｣

辛いなら辞めればいいのに。その言葉は口から出る前に喉の奥へと引っ込んだ。

それが出来ないから、彼は今悩んでる。それは父である夏油が一番よく分かっていた。まだ大人から子供へと成長途中の彼はその日、珍しく子供のように声を上げて泣いていた。