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「おらもっと早く走れ!!!」
「無理無理無理無理!!!」
「殺す気か…!?」
「もー足動かない〜…!」
「へたばるのが早いよ〜」
幸慶と雅火のスパルタ指導に悲鳴をあげながら耐え続ける後輩を、汗を拭きながら眺める。この光景もしばらく見納めになると思うと少し寂しくもなってくる。
「A。」
「…あぁ、実幸。」
「はい、これスポドリ。」
「ありがとう。」
いまさっき買ったばかりのスポドリを受け取り、それを一気に半分まで飲み干す。
「……あと一週間か。」
「あぁ。海外でも頑張ってくるよ。帰ってくる頃には三人も立派な術師になってるだろうね。」
「そうかもね〜」
のんびりと休憩していると、何かを思い出したかのように彼女はカバンの中を漁った。
「はいこれ。」
「幸穂の金槌…?」
「そう。A、芻霊呪法も扱えるよね?」
「まぁ、一応……野薔薇ちゃんからも訓練受けたしね。」
「私が持ってても意味ないから。」
芻霊呪法の使えない彼女が持っていてもただの工具にしかならないその金槌。全体が真っ黒で、持ち手の部分にS.Aと彼女のイニシャルが小さく刻まれていた。
「幸穂だってただの工具にされるより嬉しいだろうし。」
「……ありがとう。使わせてもらうよ。」
そう言って、彼女の手から金槌を受け取る。彼が使うには少し小さくて、まぁ当たり前だよななんて少し笑ってしまう。
「幸穂ね、Aのこと好きだったんだよ。」
「……知ってたよ。ずっとね。」
真希と話している時も、いつも苦しそうな表情で自分を見てくる彼女の視線に彼が気づかないはずがなかった。
「いつの頃からか向けられた好意に私は気付かないふりをしていたんだ。そして、真希ちゃんと幸せになる方を選んだ。薄情な男だろう?」
「…ううん。幸穂も、Aが幸せになる方を望んでたと思う。真希ちゃんと付き合った時、幸穂が誰よりも喜んでたもん。」
「……知ってる。」
苦しいだろうに、それでも笑顔で誰よりも彼の幸せを喜んでいた彼女はとても心優しく、心の強い女性だった。そんな彼女に支えられていたのもまた事実。
「………だからこそ悔しいんだよ。」
その言葉にどれほどの後悔と憎しみが込められているのかなんて、実幸には想像もつかなかった。
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ゆーりん - 泣きそうになったのは仕方のないことです!辛い!! (2022年11月20日 2時) (レス) @page35 id: 63a2588af8 (このIDを非表示/違反報告)
魔朝@Bsc(プロフ) - おっと目から水が......(´: ω :`) (2021年6月26日 21時) (レス) id: 9bfc59222b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花蛸花 | 作成日時:2021年6月25日 2時