○『 隗より始めよ(2) 』3 ページ10
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偉に頭をくしゃくしゃと撫でられる。偉の手は自分の手と同じくらい、いや、もしかすると自分より小さいかも知れないのに、何処か大きく感じる。ずっしりとした、重さじゃない何かがぎゅっと詰まった、或いは乗っかった手。
お父さんも大きい手だった。手の大きさは違うけれど、その逞しさは似ている。
「睿？ 大丈夫？ どうした？ 急にぼーっとして」
「…いや、別になんでもないよ」
偉に顔を覗き込まれてやっと睿は我に返った。
気が付くと、睿は偉の腕を掴んでいた。まるで「撫でるのをやめないで」とでも言うように。それはきっと、偉に父が重なったからだ。
偉は睿を数秒間見つめたあと、「じゃあ続けるよ？」と言って力が緩まった睿の手から自身の腕を引っ込めた。
「え〜っと、…じゃあ僵尸はどうやって生きてると思う？ 死んでるけど」
「？ 人間を食べて、じゃないの？」
「半分正解。僵尸は具体的には人間の生気、即ち
「…うん」
「僵尸の唾液は特殊で、とんでもない密度の陰でできてるんだ。陰は硬い陽と違って柔らかくて形を変えやすいから、陽に合う様に変化して、陽を“生の性質を持った陰”に変えちゃうんだ。僵尸と言えど、生気がないと生きていけないんだ。ほっとくと生を保てないからね。ここでも分かるんだろ？ 陰と陽を併せ持つから生きていけるのさ」
口では素直に「うん」と返したが、睿はこう思った。「なんかウザい」
偉は「話を冒頭に戻そうか」と言った。冒頭、と言えば、心がどうとかなんて話だ。
「さて、僵尸を倒すのには陽が必要だね？ 陽は基本的に明るいという性質を持ち、精神面を司る。はい、僕が何言いたいか分かる人」
「…明るい心が大事、って事？」
「そ〜!!! 睿ってマジ頭良いね!!! 偉〜い！ …ま、有り体に言えば明るいのが大事。希望、或いは熱情、そういうポジティブな内面と呼吸で陽は練る事ができる。呼吸の呼は陽、吸は陰。息を吐きながらじゃないと陽は練れない。コツを掴めば簡単だよ」
偉は頬杖を付いて、にっこりと微笑む。
「ねぇ睿、君はなんで道術士になりたいの？」
「僵尸を皆殺しにしてやりたいから」
偉はその物騒の返答に口を真ん丸にすると、くす、と小さく笑った。何処か申し訳なさそうに。睿はその笑顔の意味が分からず、そして遂に聞く事も出来ずに一日が終わった。
●第四集 - 『 解語の花は地べたに咲く 』→←○『 隗より始めよ(2) 』2
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