○『 隗より始めよ(1) 』2 ページ6
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「大丈夫大丈夫、睿の体力ならイケるってぇ卓球やってたんだろ？」
「いやいやいやいや嫌!! 体力とかじゃなくてや!!! 長距離走嫌いなの!!!」
「嫌嫌言ってて僵尸が倒せるかっ！ さぁレッツゴー！ 美雨、先導してあげてね。僕ここで待ってる」
「承りました。さ、スタートです睿さん」
「嫌だ〜!!!」
うだうだ言っている間に、武当山に着いてしまった。麓に屋敷があるのだからすぐ着いて当然なのだが。辺りは観光客、或いは山で修行を積んでいる人々で賑わっている。
叫びながら睿は走り出した。「いやいや、口と体の動き一致してないんだけど睿くーん」ぐんぐん遠くなっていく睿と美雨を見送りながら「速ぁ」と独り言を漏らす偉だった。
確かに卓球で体力はつけた方だった。学校での長距離走はいつも一位だったし。けれどどちらかと言うと短距離の方が得意だった。
理由は“呼吸”。呼吸が苦しい。それだけだ。
「はっ、…はぁっ、うぅ…っ」
「睿さん大丈夫ですか？ 頑張って」
「なんで美雨さん、息、切れてないんだ、よ！」
今にも意識が飛びそうだ。意識を失おうものなら階段を転げ落ちる事になるが。斜め上には道教の道士が修行をしている建造物が数多に聳えていた。
「睿さん、あなたはこれから偉さんの元で陽極式太極拳というものを学ぶ事になります。太極拳で重要なのは、一般・陽極式関わらず“呼吸”です。陽極式は元より僵尸を殺す為に練られたもの…よって激しい動きが多いです。体力を温存する為、無駄のない呼吸をできる様にならねばなりません」
「そのっ…呼吸って、どんなの…！？」
「今の睿さんは息を吸う！ 吐く！ …と、メリハリをつけすぎなのです。つまり無駄があります。陰陽の様に、吸う、と吐く、を循環させる様に、境目を埋めるように呼吸するのです」
それを聞いて睿は思った。やり方が分かってもできなかったら意味ないじゃないか。
ゆっくり息を吸うと細くなった気管に空気が引っ掛かって咳き込んだ。美雨は「無理にする必要はありません。自分の呼吸に合わせるだけで良いのです」と微笑む。
「ちょっ、けほ、ちょっとだけ、待って美雨さん」
「ええ」
「はーっ、はーっ、…はぁ…」
呼吸を整えなければ正しい呼吸など始められもしない。睿は膝に手を乗せもたれ掛かり、呼吸を整えた。
ゆっくりと息を吸い、曲線を描く様に緩やかに吐く事に移る。これをキープして走る。
「よし、行こう…美雨さん」
「はい」
○『 隗より始めよ(1) 』3→←●第二集 -『 隗より始めよ(1) 』
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