巨龍の屠畜骸【オリジナル】 (ページ21)

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●第五集 -『血筋の話』ページ21

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「そう言えば師匠」

　一件が済んでからの夕食中、睿は三体の屍尸が全く臭くなかった事を思い出した。
　その事を聞くと、偉はああ、と言って手に持っていたコップを置いた。

「屍尸は“初めは”腐ってるって言ったろ？屍尸になってから時間が経っていれば経っている程、より人間に近付くんだ。触った感触や香りはね。人間か屍尸か判断しにくくなるって事。ま、僕にかかれば見た瞬間分かるけどね」
「強いから？」
「偉さんは見なくても分かりますよ。その場にいる感じで。偉さんは希代血統の持ち主ですから」

　『希代血統』。初めて聞いた言葉に、睿は目をぱちくりさせた。同じ言葉をそっくり繰り返す。偉は「“特別な血筋”の事だよ」と笑う。

「美雨は“陽が濃密な希代血統”。僕は“陽しか持たない希代血統”さ」
「……は？陽しか持たない？屍尸の逆バージョン？」
「うん。張って苗字は中国には幾らでもいるけど、ウチの張家は特別。太極拳の生みの親、張三豊(サンボン)の子孫。道術士の世界ではなくてはならない家の一つさ」

　偉は言う。太極拳とは元々屍尸を殺す為に生まれた武術であり、それを作り出したのが先祖の張三豊なのだ。
　三豊はこの“陽しか持たない”体質の元となった突然変異体だった。それが奇跡的にその子孫にも受け継がれるようになったのだ。

「特別な体質を持っている人は沢山いるけど、それが受け継がれて反映するのかというとそうでは無いんだよね。陽しか持たない体を持つと、陰にいちいち反応しちゃうから屍尸か人間か男か女か、一緒の空間にいるだけでわかる」
「いやでもでも、陰陽どちらも持ってるから生きられるんじゃないの？」

　そう、そうなのだ。屍尸も陽(生)を摂取し、生の性質を持った陰を食う事で生きている。その話の流れで行くと、陰を食わないと死んでしまう。

「うん、そうだよ。そこで開発されたのが、陰をしこたま与えて育てられる家畜。動物は陽だね。しかし陰を過剰に与えられて育つ為に、陰の性質を持った陽になる」

　偉は「だけど僕が張三豊の子孫であることは秘密だよ」と睿の頭を撫でた。
　理由を聞くと、偉はニヤリと笑った。

「最強道術士の張偉は、既に死んだ事になってるから」

　偉は「あ」と思い出したように声を上げると、「睿(キミ)も希代血統のはしくれっぽいよ」と言って食器を片付け行ってしまった。
　そんな事言われても、と思いながら、睿は追い掛けるように食事を済ませた。