○『 解語の花は地べたに咲く 』10 ページ20
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「このモップみたいなやつでいい？」
「十分です」
モップを渡すと同時に、髪を下ろしているからか、美雨の匂いがする。というか、嗅いでいる事実に、睿は恥ずかしくなってきた。
美雨はポケットからゴムを出すと、髪の毛を縛り直した。そして腰あたりに指をかけ──ワンピースの白いパニエを下ろした。
「っちょ！ 美雨さ…！？」
「大丈夫です、パニエですから。戦うには邪魔ですし」
パニエを下ろすと、服が垂れ、チャイナ服になった。黒いタイツを履いている。
美雨はモップを持つと、「準備はいいですか？」と睿に聞いた。睿は少し強ばった顔で「うん」と返す。
「睿さん、安心してください。あの屍尸達は、主から命令を受けない限り動きません。ですが明浩の事なので生かしておいては悪さをするでしょう。だから一応殺すだけです。大丈夫」
美雨はドアを開けて、部屋を出た。確かにただ立ってこっちを見ているだけで何もしない。いや出来れば見ないで欲しいのだが。しかし、不思議とあの日のように屍尸から腐臭がしなかった。
美雨はふわりと花弁のように軽く舞うと、空中で棒を使って三体の屍尸の頭を弾き飛ばした。見た事がある動きだ。全身を空中で捻り、回転の勢いで敵を仕留める。偉がやっていた技。張流陽式太極拳、『日巡り』だ。
しかし偉のように力強く決めるのではなく、美しく、鮮やかだ。美雨らしいと言えばらしかった。
「幸いこのモップ木でできていたので、陽が通りました」
「陽が…通る？」
睿は頭が無くなった屍尸に引きながら聞いた。
「電気が通るものと通らないものがあるように、陽が通るものと通らないものがあります。例えば、革。動物の皮や毛などで出来たものには陽は通りません。陽は陰のものに通り、陰は陽のものに通ります。動物は陽ですから、一般的には通りません。植物は陰なので陽が通る、という訳です。…でも、勉強は後にしましょうか。偉さんを探しましょう」
そう言えばすっかり忘れていた。偉がいない。
探して回っていると、地下らしき場所から偉が出てきた。
「ごめんよ、地下にまだ屍尸がいたから殺ってた。二人とも無事？ 睿は怪我しなかった？」
「あー…してない」
「？ なんか怪し──」
「さ、帰りましょう。見つからないうちに」
偉が怪しがると、美雨は無理やり偉と睿の腕を掴み走り出した。
そんな中で、睿は静かに炎を燻らせた。
「(師匠も美雨さんも屍尸を倒せる…僕も、倒せるようにならなきゃ)」
●第五集 -『 血筋の話 』→←○『 解語の花は地べたに咲く 』9
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