○『 解語の花は地べたに咲く 』9 ページ19
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助走を付けて、準備万端の状態で完璧に決まったパンチは、明浩に強い打撃を与えた。筋肉なら元々多い方だが、筋力が少なくても強い打撃を与える方法は、とっくに習っている。
明浩はそのあまりの勢いに、その場に四つん這いになった。
「ガ、キ…!! 何故…！」
「あんたが勝手に俺が気絶してると思ってただけでしょ。フリだよ、フリ。美雨さんは気付いてくれたもん。ね、美雨さん」
「ええ」
「あんたのカスみたいな蹴りで気絶するほど、俺の腹筋も弱くないから。初めの蹴りは思いっきり食らっちゃったけどね。さっき吐いたのは演出。昼ごはん食べすぎちゃった。ごめんね、高そうな床俺のゲロで汚しちゃって」
「な…っ!!」
睿は服を捲る。そこには、子供とは思えないほどくっきりと割れた腹筋だった。これには偉も驚いていた。なんでも、小さい頃からトレーニングをしていたから割れているのだという。通っていた卓球スクールは、相当スパルタだったらしい。
「まぁ、いいか。これからこの部屋あんたの血でめちゃくちゃになるはずだし」
睿は間髪入れずにに殴り込む。
血でめちゃくちゃに…は、嘘だ。流石に血が出るほど殴る勇気はない。けれど、本気で。
美雨は髪の毛を縛っているリボンを解くと、気絶した明浩の腕を縛った。
「美雨さん、大丈夫？」
「ごめんなさい、睿さんこそ大丈夫でしたか？ この部屋オートロックで、この男が持っているカードキーがないと内からも外からも開かないんです。持っていませんね…」
「あ、これ？ 僕が殴った勢いで落ちてたみたい」
床に落ちていたカードを取って、美雨に渡す。
美雨は睿の頭を撫でると、扉にカードキーを通して開けた。そして、すぐにもう一度閉めた。
ドアの向こうにいたのは、三体の屍尸。顔に札を貼られている。
偉の心臓が大きく脈打つ。
蘇ってくる。
あの日、あの場所、あの風景、あの匂い。
食い散らかされた家族、屍尸、ああ、ああ──トラウマに呑まれそうになると、ふわりと花の香りがした。
美雨に抱き締められた。「大丈夫です。睿さん、この部屋に棒状のものがないか探してくれませんか」その暖かさと落ち着く香りに、睿は現実に帰ってきた。
「…棒…？ 何に使うの？」
「私があの屍尸を殺します。ねぇ明浩。闇市で大金はたいて買った屍尸、私が殺してもいいでしょう？」
当然明浩は起きないが、美雨は怪しく微笑んだ。
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