○『 解語の花は地べたに咲く 』4 ページ14
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風呂から上がり着替え終わると、偉は既に風呂場から出たすぐそこに立っていた。その顔にいつもの様なニヤニヤした笑顔はなく、口は固く一文字に結んでいた。初めて見たかもしれない、こんなに真剣な顔。
その仮面の下に、一体何があるというのか。
「師匠、これからどうするの」
「当然、美雨を取り返しに行く。君は風邪引かないように暖かくしてさっさと…」
「僕も行く！」
睿が言葉を発した瞬間、静かな口調で「ダメだ」と言われた。
何か不満そうな顔をした睿を見て、偉は小さく溜息を吐く。「行きたい気持ちも分かる」そう言って、偉は睿の顔を掴み、自分の方へ向けさせた。
「でも危ないに決まってるだろ。大人には子供を守る義務っていうのがある。ましてや僕は君の保護者。君が大人になるまで危険な目に遭わせられない。君を危険な目に遭わせたくもない」
「俺が弱いって事？」
「ああ弱い。でもそれ以上に子供だ。勘違いしないでくれ、信頼してない訳じゃない。心配なんだ。君の兄弟子はね、僕がそうやって殺したんだ。だから、もうこれ以上僕をひとりにしないでおくれ、お願いだよ睿」
懇願する様な声。きっと、偉が弟子に死んで欲しくないのは本当だ。
けど、でも。睿が弱いから、美雨は連れて行かれてしまった。だから、せめて手伝いだけでも。せめてついて行くだけでも。
「足でまといにならないようにするから、師匠…」偉は正しい。それは確かだ。けれど納得できない。馬鹿と言われてもアホと言われても仕方がない、でもそれでいい。美雨を助ける事に手伝えるなら。
偉は苦しそうな表情をした後、「わかったよ」と掠れた声で言った。
「良い機会だ、君の力も試してみよう。今から美雨を連れ去ったヤツらのとこに行くけど、アイツらは幾つか屍尸を持ってる」
「屍尸を持ってる…？」
「説明は省くけど札を使えば命令通りに動くんだ。特殊な技術だけどね。君が屍尸を殺すにはまだ早い。ただはあそこには人間が腐る程いる──やれるかい？」
要は、屍尸を倒す代わりに人を倒せという事だ。実技テストのようなもの。
睿は口角を持ち上げると「余裕」と返した。すると、偉は「さすが僕の弟子。そうでなきゃね」と言ってニヤリと笑った。
タクシーを呼んでいたのか、家の前には車があった。
この時ばかりは、車も、電車も、飛行機も、全てが遅く感じた。何十分車に揺られたのか分からないが、既に都会が近かった。
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