○『 解語の花は地べたに咲く 』3 ページ13
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「やめなさい!!! 止まりなさいと言っているんです!!!」
空気を震わすその声の主は、美雨だった。あの細い首から、華奢な身体付きから出る声では無かった。
小雨のように静かで優しい声では無く、怒気を含み、喉を震わせ、殴るような声だった。しかし美雨らしいと言えば美雨らしい、凛とした怒り。
大男の腕が止まった。
「その子に手を出すのなら私はこの場で死にます。しかしその子に一切手を出さずここを去るなら私はやめましょう。代わりに私が着いて行きます」
後ろを見ると、美雨が両手を上げていた。
しかしその顔は険しく、眉間にシワを寄せている。いつもの優しい美雨ではない。
「美雨さん…！ ダメ、きっと──」
きっとコイツらは悪い奴らだ、そう言うよりも先に、大男が睿を跨いで美雨の腕を掴んだ。
「大丈夫、睿さん。あなたはあなたに出来る事を、いち早くお願いします」
そう言って、美雨は男達と共に白い車に乗り込んだ。
残ったのは地面に落ちた美雨の傘。睿はそれを拾い上げて、家へと走り出した。
「(美雨さんが駆け引きに自分の死を持ち出したって事は、アイツらはきっと美雨さんを傷付けられない立場だ。つまり、美雨さんが死んじゃう事は多分ない。だけど、なんで…？ まず師匠に伝えなきゃ。どこ行ってんだあの人…!!)」
傘も差さずに雨の中を走る。途中一度転んで泥だらけだが、睿は気にする程余裕のある人間ではなかった。まだたった数ヶ月しか美雨と過ごしていないけれど、姉の様な母の様な、そんな大事な人だ。これ以上奪われてはたまったもんじゃない。
家中探しても偉はいなかった。
迷いなく外に飛び出る。服が水を吸って重たくなって、まるで枷のように感じた。なんでこういう時に限っていないんだ。
「どうしたの。びしょ濡れじゃん。美雨は？」
ふ、と雨粒が自分に当たらなくなったかと思うと、後ろに偉が立って傘を差してくれていた。黒い傘だ。
偉の顔を見ると安心して、なんだか泣きそうになった。
「美雨さんが連れてかれた！ 知らない奴らに！」
「……最近来ないと思ったら、アイツらまた──」
偉もあの男達を知っているようだった。
すると、偉の表情はストンと消えた。小さく舌打ちをすると、偉は睿に「まず風呂に入って着替えてきな」と言っていなくなった。
「はい」
その場に偉はもういなかったが、聞こえていない筈もない。睿は大きな声で返事をし、家に向かった。
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