巨龍の屠畜骸【オリジナル】 (ページ12)

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○『解語の花は地べたに咲く』2 ページ12

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　外は、ドーム状に広がった灰色の雲でいっぱいだった。掃除を始める前よりは弱まっていた。とは言え、やはりアスファルトに打ち付ける雨は容赦ない。
　2人は足早にスーパーに向かい、買い物を済ませた。
　睿はお菓子を買って貰ったことに満足し、鼻歌でも歌えそうな気分だった。

　美雨が青い傘を差した。朝顔が咲いた様だ。
　対照的に、睿は真っ赤な傘を差す。

「また強くなっても困りますし、少し急いで帰りましょうか」
「うん」

　美雨はにっこり笑うと、歩き出した。
　信号で止まっていると、横断歩道にも関わらず白い車が目の前に止まった。「何この車」邪魔くさいな、そう言おうとすると、美雨はすぐさま睿の手を掴み反対方向に走り出した。

「ちょっ…美雨さ…！」
「シッ…すみません睿さん、巻き込んでしまいましたね。少しばかり逃げます、お付き合い下さい」
「…う、ん」

　睿は美雨の手に縋るように走る。じゃないと、自分だけ置いて行かれそうなスピードだからだ。
　最近気付いた事だが、美雨の身体能力はそこら辺の人間とは違う。偉には決して届かないものの、その身のこなしは、紛れもなく『陽式太極拳』だった。

　筋骨隆々の男達が車から飛び出てくる。
　睿は走りながら地面の石を蹴りキャッチすると、追い掛けてくる男達に投げた。美雨が逃げるという事は、悪い奴なのだ。

「回り込め！」
「……、睿さん、あなたは先に──」
「美雨さん!!」
「あなたは先に逃げなさい！」

　美雨は後ろから襲いかかってきた男に傘で一発お見舞する。
　美雨の初めての命令口調に睿は一瞬たじろいだが、恐らく現時点では美雨の方が睿より強い。足でまといになりかねない。

　睿は頷いて走り出したが、角で男とぶつかった。睿には、190cmは優に超えるだろうその大男が、壁にしか見えなかった。下手くそな彫刻のような目鼻立ちに、小さくくぼんだ目。その目は、冷徹な殺意を帯びていた。

「(殺される)」

　睿は反射的に後退りをした。既に背後の美雨にも敵が回り込んでいる。

　腕を伸ばし呼吸を整え、指先を男に向ける。戦闘態勢だった。殺されるなら、殺される前に殺せばいい。負けじと殺意を込めた視線で大男を刺す。
　男はフン、と小さく鼻で笑うと、拳を振り上げた。

　望む所だ、と姿勢を低くすると、背後でカタン、と傘が落ちる音が聞こえた。