巨龍の屠畜骸【オリジナル】 (ページ11)

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●第四集 - 『解語の花は地べたに咲く』ページ11

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「雨酷いよ。外で修行は出来ないね、美雨さん」
「そうですね。では、トレーニングにしましょうか」

　煩わしい程に雨粒がコンクリートを打つ。バチバチと弾かれた水は、宛ら火花だった。
　雨粒に当たってはいけない、そんな意味のない危機感を感じながら、睿は傘を差しながら小走りで玄関に入った。中では美雨が出迎えてくれている。

　頭についた雨粒をほろっていると、美雨がタオルをくれた。思わず笑顔になる。「ありがとう美雨さん」
　それを見ていた偉は、「何か僕と反応違くない？」と何処か不満げだ。

　入れ違いで、今度は偉が傘を差して外に向かう。用事があるそうだ。
　偉がいた所で、修行をつけるのは偉ではなく美雨だが。美雨も偉の元で身を守る程度の太極拳を身に付けているそうだ。曰く、「私を倒せる程度には強くならないと、偉さんの修行には付いていけませんよ」。一蹴りで僵尸の頭を弾き飛ばすのだから強ち嘘には思えない。

「なんか腕立てとか慣れてきちゃった」
「卓球をやってたんですよね。確か。体力が元から備わっているのなら悪い事はありません。卓球で鍛えた動体視力と瞬発力、是非とも僵尸退治に役立ててくださいね」

　天井に引っ掛かっている吊革でくるくる回る睿を見上げながら、美雨は優しく微笑む。
　「ああ、そう」美雨は何かを思い出したかのように、垂れた目を見開く。

「？どうしたの？」
「買い出しに行かなくてはならなくて…でも部屋のお掃除もしなくちゃ」
「僕が買い物に行こうか？」
「いえ、今日は雨ですし…かといって留守にするのも少し心配です…」
「じゃあ、一緒に部屋の掃除してから一緒に買い物行こうよ。掃除とか、ちょっと修行僧っぽい」

　本当はトレーニングしたくなかっただけ、なんて事は言わず、睿は吊革から回転つきで飛び降りた。美雨は「名案ですね！」と笑うと、納戸から掃除道具を取り出した。如何せん広い屋敷だ、一人で掃除するのには時間が掛かる。

「睿さんは窓拭きをお願いします」
「うん。オッケー。踏み台使っていいかな」
「もとの場所に戻してくださいね」

　美雨はいそいそとモップを取り出し、奥の方へ駆けていった。華奢でほっそりとしたその背中を見送りながら、睿は思った。「なんでこんな所で働いてるんだろう」
　睿の審美眼的には美雨はどストライク。というか、誰が見ようと美人と言うだろう。もっとお洒落をしても良いのではないだろうか、そもそも何故──偉と出会ったのだろうか。