○『 序壊 』2 ページ2
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言ってしまえば自暴自棄だった。家族を失った自分には何も残っていないと、頭の何処かで考えていた。思えば今も昔も、物事に聡い子供ではあった。──故に。逃げる事を、自らの未来を捨て、少しでもその化物に傷をつける事を選んだ。家族が望んでいない事をだ。
「あ"あ"あぁぁぁぁぁぁぁああっ!!!」
包丁の切っ先を男に向けて突進する。刺した拍子に男がフラついて、共々倒れ込んだ。包丁は強く刺さらず、浅く刺さって勢いが止まった。男の体は硬直しており硬かった。包丁を引こうとすると、切り口から血管の様な何かが現れて、包丁に巻き付き始めていた。気味が悪くて、尚更強く包丁を引く。
包丁を抜いて、今度は首を刺してやろうと振り上げた。
振り上げた腕の隙間に、目で追えない様な速度の男の腕が入り込んだ。少年には見えた。卓球で鍛えた動体視力だ、速いものを目で追うのは造作もない事だ。けれど、既に包丁を振りかぶる事を命令した身体はもう逃げる為には動かない。
「ッッ、う!!! あぁぁっ、うぅっ」
男の腕は少年の左目辺りを激しく殴り付けた。少年はその弾みで後ろに転がる。左の眼球が今まで感じた事がない程の大きな痛みに苛まれる。恐らく、潰れたのだろう。
突き刺した包丁を手放し、思わず左目を押さえる。痛すぎてもう涙も出ない。
そして男はもう一度右腕を振り上げる。
反射的に男の腕を防ごうと頭を覆った時だった。
「死ぬにはまだ早いよ、少年!!!」
横から睿よりも小柄な少年が飛び出してきて、そのまま男の頭に蹴りを入れた。男の頭はその強大な負荷に耐えられず花火の様に弾け飛ぶ。スタッ、と少年は身軽に床へ舞い降りる。
少年の体は細っちょろく、とてもあんな蹴りを繰り出せる様な脚ではない。
水色の髪の毛に──何か変なお面だ。太極図を模した仮面で、顔の上半分は隠されていた。現代では珍しい、しかも少年の体のサイズに合わない大人用のパオを纏っている。
少年は睿の方を向いて怒鳴り付ける。
「君さぁ! 僕がたまたまここに来たからそんな怪我で済んだけど、来なかったらぜっっっっったい死んでたよ! 包丁でキョンシーに対抗しようだなんて無謀が過ぎるね!」
「…き、キョンシー? 君は…誰…?」
ぺたん、と睿は後ろに手をつく。力が抜けてしまった。あの男は、死んだ?
少年はニヤリと笑う。
「僕は『
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