●第一集 -『 序壊 』 ページ1
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「うわああああぁぁあぁあっ」
少年はそう声を上げてから慌てて口を塞いだ。声を上げてはいけないからではない。目の前の光景と異臭に吐き気がしたからだ。
電気を点けていない薄暗い部屋には、眩しい位に血液が散らばっている。その血を辿った先に行き着くのは、何処をとっても愛する家族だった。重労働で鍛え上げられた父の屈強な腕も、よく「似ている」と称された母の整った顔も、細身だが便りになる兄の背中も、全ての生命が絶え果てていた。
異臭は血液の臭いだけではない。激しい腐臭もだ。
その腐臭を放つのは家族ではなく、今目の前で家族を貪り食っている男からだ。少年──『
「(お父さん、お母さんっ、お兄ちゃん…!!! なんなんだアイツ！)」
大声を上げても、耳が聞こえていないのか男は振り向かない。
睿はここで
睿はその場にあった椅子を掴んで、男の背中にぶつけた。が、今日で8歳の未熟な腕力では振り上げる事は愚か振り下ろす事もできず、攻撃はほぼ不発に終わった。そこでやっと睿に気が付いたのか、男は振り向く。
「ひっ…」
──やっぱり、化物だ!!!
男の唇からは尖った牙が飛び出しており、眼球は白の筈が黒だった。しかし視点は曖昧で、振り向いたものの恐らく少年を捉えてはいない。目も見えない様だ。男の腐臭に集って蝿が飛ぶ。
睿はその風貌に驚き、一歩下がりかける。しかし下がりかけてやめた。
男が貪り食っていたのは母だった。腹を無惨に食い散らかされている。睿は、ここでまた選択を間違った。
睿に湧いたのは母を失った悲しみではなく、奪われた怒りだった。よくも、よくも僕の家族を。
台所に転がっていた包丁を手にとって、ろくに使った事も無い癖に脅す様に向けてみる。ブルブルと震えてるのは怖いからじゃない。体の内側を焼く怒りが留まる事を知らないからだ。
そもそもなんでこんな事に。どうして。
今日は自分の誕生日で、卓球の大会だった。誕生日パーティーの準備をするから、と母は迎えに来なかった。だから、同じ大会に出た友人の家の車に乗せて貰って帰ってきた。そしてドアを開けてみたらこうだ。やっぱり、おかしい。
「お前なんかが来るから、おかしくなったんだ…!!! …殺してやる!!!」
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