ヒロインを諦めた日【3】 ページ6
〔現在〕
藤原「そういやあの時、大吾がなんて言ったか…結局教えてくれへんかったな」
「あ……」
忘れてた。
いつか言おうとは思ってたけど、めっちゃ忘れてた。
藤原「忘れてたって顔に書いとる」
笑いながらそう言われたから、私も笑って謝った。
「ごめん」
藤原「ええよ。別に気にせえへん」
バスの近くでわちゃわちゃしてる他のメンバーを、遠くで見つめる私たち。
丈くんが突然言った。
藤原「まだ、諦められてないやろ」
「………」
何も言えない。言えなかった。
でも。
沈黙は肯定してるのと同じだ。
藤原「やっぱりな」
諦めることなんて、忘れることなんてできなかった。
どうにか押し殺して、でも近くにいればいるほど彼をおもう気持ちは募っていった。
藤原「もうええと思ってきてん」
「え？」
藤原「…正直なにわ男子がラストチャンスみたいなとこあったから、あのときは諦めろ忘れろ言うてたけど。デビューして、自信がでてきた」
知ってる。
丈くんの、なにわ男子に懸ける思い。
この4年で痛いほど伝わってきた。
その思いに触れる度、気を引き締めなきゃと思わされた。
藤原「今は、諦める必要はないと思ってる」
「そっか」
そう、だね。
諦められないね。きっと。
私の真ん中にはなにわ男子があって、そのもっと奥深くに大吾くんがいる。
藤原「伝えてみれば？」
「ずっと言わないよ」
藤原「……」
「壊したくないの、何も」
もうすぐバスの乗り込むと、謙杜が遠くから呼んでくれる。
手を振って返事をした丈くんは、私に言う。
藤原「まああんま気負わず、2年目は楽しめよ」
「…うん」
藤原「Aはボケようと思ってやるボケがつまらんねん。もうちょい頑張りぃや」
「えっ、ちょっひどくない？！」
丈くんは優しい。
何かを伝えたい時にかける言葉も、くらい空気にならないようにしてくれるところも。
いつも気持ちに気づいてくれるところも。
優しさにこれからも甘えていたい。
そう思った。
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作者名：ソルト
| 作成日時：2023年3月30日 22時
