ヒロインを諦めた日【2】 ページ5
〔4年前、結成日〕
藤原「A」
レッスン終わり。
スタジオを出て、駅に向かおうとすると声をかけられた。
「…丈くん」
藤原「ご飯、食べ行こか！」
「うん」
知ってたんだね。
私の気持ち。
ぜんぶ、わかってるんだね。
この恋を諦めようとしていることも。
丈くんは優しいね。
普段は強いツッコミするくせに、こんなときはいつも。
いつもそばにいてくれて、欲しい言葉をくれる。
藤原「すぐじゃなくてもええやんか。いつか、思い出にできたらええやん」
「うん」
思い出にできるのかな。
ううん、しなきゃいけない。
これからこのグループでやっていくなら。
「私ね、どこかでアイドルを諦めてたの。女優としてやっていくんだって思ってた」
藤原「…前も聞いたで、それ」
2回目の話でも聞いてくれる丈くんは、やっぱり優しい。
女優になるんだったら、それでもよかった。
ステージから離れて、彼ともあんまり会えなくなって。
そしたら、これからどうしたいのか。
想いを伝えたいのか、たまたま近くにいたから好きが続いてたのか、はっきりすると思った。
でも、まさか同じグループになるとは…。
「この話、大吾くんにも話したことあるの。そのときなんて言ったと思う？」
そう聞けば、まっすぐにこちらをみていた目をそらして、考え始める。
藤原「そうやなあ……あ、はい！ そっかって一言」
不正解を伝えるように、私は首を振った。
私も伝える前は「そっか」ってそれだけ言われると思ってた。
でも、あの時彼は。
…大吾くんは。
私から出した話題なのに、なかなか話し出せない。
「……」
藤原「…まあ、今はさ。目の前のことに一生懸命でおったらええよ」
そしたら、忘れられるから。
丈くんの言葉にこくりと頷いた。
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作者名：ソルト
| 作成日時：2023年3月30日 22時
