【n.p.l】この想いを声に【l.n.t.n】 (ページ9)

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9.勇気を出した時ページ9

あの、と声を出した自分はあまりにも低姿勢で、大人の威厳とかいうものは一切なかった。
陰キャ丸出しのその態度に困惑する大学生達を一瞥して、冷静に考えてみた。
“コイツら今『なんだこの陰キャ』とか思ってるんだろうな”とか、“出て来たはいいけどめっちゃボコボコにされたらどうしよう”とか、それくらいの事しか頭に浮かばなかったが、それでも勇気を出して一歩前に出た。

「すみません、さっきの店での会話聞こえてたんですけど、この子ちょっと喋れないんで筆談しようとしただけなんだと思うんですよ」

うーん、あまりにも低姿勢。これにはあの少女も思わず苦笑い。とまではいかないが、かなり不安気な顔をしている。頼りない大人でごめん。

「いや、なんですかいきなり。というか喋れないってどういうことですか」

敬語を使えるあたり本当に悪い奴らではないんだろうけどなぁ、なんて偏見を持った考え方をしていると、少女がはっとしてメモ帳とペンを取り出した。

『本当なんです』

少女が大学生たちにメモを見せる。しんと静まり返った公園は、彼らの中の誰かが鼻で笑う事で再び音を取り戻した。

「いや、喋れないって、ねぇ？なんかの病気？」
「そういう障害がある人だったとは…」

半信半疑で笑いつつもとりあえず納得はしてくれたようで、少女に“ごめん”と謝る大学生。
少女は首も手もぶんぶんと力強く振って“大丈夫ですよ”とアピールしている。
“早く治ると良いね”と言って手を振る大学生を見送り、公園には俺と少女の二人だけになった。

「…はぁ。とりあえず、良い人で良かった。これがヤンキーみたいな奴らだったらボッコボコにされてたかもしれない」

半分独り言のように言うと、少女がメモに何かを書き始めた。きっとお礼をしようとしているのだろう。

『助けてくれて本当にありがとうございます。今度こそお礼をしたいです』

やっぱり。と思いつつどんなお礼が良いか考える。といっても特にしてほしいこともないし、正直その“ありがとう”の一言さえあれば十分だ。何も思いつかないから結局断るしかないが、きっと満足しないだろう。

「んー…学生に何か奢ってもらう訳にもいかないし、別にいいよ。」

不満そうな顔をする少女は少し考えた後にまたメモを書き始めた。どうしてもお礼がしたいのか。

『美味しい喫茶店があるので、そこを紹介したいです。安いので私でも奢れますよ』

そういうことじゃないんだけどな、と鼻で笑った。