【n.p.l】この想いを声に【l.n.t.n】 (ページ44)

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44.イルカショーを見た時ページ44

イルカショーが始まり、歓声が沸きあがる。まずはイルカの紹介から始まり、これから何をするかを簡単に説明される。
イルカがぶら下がったボールに向かって高く飛び跳ねた。水しぶきが太陽の光に反射してキラキラしている。
こんな暑い日に優雅に泳いで気持ちよさそうだなぁと思いながら、特に音のならない小さな拍手をする。
隣ではAが目を輝かせてイルカショーに見入っていた。成功する度に微笑んで、難易度が上がる度に感心したように小さく驚いている。

「このイルカ賢いね」

多分こう思ってるんだろうなと思って代弁も兼ねて声をかけると、その輝いた瞳を俺に向けて頷いた。すぐにまたイルカの方を向いてしまったので特に会話をすることなく終わってしまう。

様々な技を披露し、イルカショーも終わりに近付く。ドルフィントレーナーがプールに入り、イルカと息を合わせて泳ぎだす。
イルカの嘴に足を乗せ、水中を素早く移動する。そのまま見ただけでは人間の上半身が水上を猛スピードで移動していくみたいに思える。すごくシュール。
そのままトレーナーを乗せて、イルカが水中から顔を出す。イルカに押し上げられてトレーナーが高く舞い、その鮮やかさにおぉと声が出た。
Aが大きな拍手をしながら俺をちらちらと見ている。“凄くないですか！？”と目で訴えている様だった。

「面白かった？」

大きく頷いて肯定したAは、前に見に行った時よりも色々な技が増えていたと喜び、最後にはお互い言葉が通じなくとも、ああやって息ぴったりに動けるのがすごいと評価していた。
何度も何度もメモに感想を書いていくのを見て、思わず笑ってしまう。

「めっちゃ書くじゃん」

『それほど凄かったんです！！』

未だに興奮が冷めないようなきらきらとした目で感想を伝えたがるので、“分かったから”と落ち着かせてパンフレットを開く。

「じゃ、こっから順番通りに観てくか」

会場を出ようと歩きはじめると、裾を引っ張られる感覚がする。何かと思い視線を移せば、裾を掴んで前を向いたままのA。特に話しかけてくる様子も無いが、その横顔から見える耳は赤く染まっている。

……これ、俺はどう反応したらいいの。

その気があるのかないのか、デート意識によるものなのか。
それだったらいっそ裾じゃなく手を握れば、だとかを混乱しつつ考えを巡らせたが、結局そのまま歩き出す。

Aの手と俺の手に、裾という微妙に空いた空間。
電車の時と同じだ、と感じた。