【n.p.l】この想いを声に【l.n.t.n】 (ページ43)

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43.水族館に着いた時ページ43

「ついたー」

よいしょ、と到着の一歩を大げさに踏み出し、目の前の建物を見た。
建物の外見は特に昔と変わらず、何度目かの“懐かしい”を呟いた。どうやら奥に建物が増えているらしい。

『先に新しい方に行きますか？』

「んー、まあ順番通りにいこ」

チケットを買い、パンフレットを広げてみると、Aが覗き込んでくる。
その距離にドキドキしつつ、平常心を保ってパンフレットを見やすいように下げる。

「あ、先にイルカショー見る？時間近いよ」

パンフレットに載っているイルカショーの案内を指差すと、Aが笑顔で頷く。
彼氏彼女の関係ならここで手でも繋ぐんだろうけど、俺たちは友達。いくらお互いにデートだと意識していたとしても、それはできない。周りのいちゃつくカップルを横目で見つつイルカショーへと向かう。

Aがはぐれない程度に気遣いつつ歩き、見覚えのある場所に出る。
ここは昔と変わらないな、と思いながら歩くと、すでにイルカショーの会場には沢山の人がいた。
最後に行ったときは一番前に座ったんだっけな、と思い出す。
前の方が迫力があるから！と引っ張られて、後悔するくらい水がはねてびっしょり濡れてしまったのを覚えている。

「人多いなぁ、どこ座る？やっぱ前の方？」

イルカを近くで見たい人が多いのか暑いから水を浴びて少しでも涼しくなりたいのか、前列を選ぶ人が多くいた。今ならまだ座れるかな、と前列の方へ向かおうとすると、服の裾を掴まれる感覚がした。

『濡れちゃいますし、後ろの方でいいですよ』

「え…イルカ近くで見たくない？」

Aは微笑んで首を横に振ると、近くの椅子に座って俺も座るようにと促した。日陰になっていて、涼しい風が吹いている。Aの隣に座り、差し出されたメモを読む。

『遠くの方が全体が見えて良いですよ』

「…まあ、俺も濡れたくないし、遠くの方がよく見えるとは思ってたけど。」

何だか俺ばかり浮かれているみたいで恥ずかしくなってきた。恥ずかしい気持ちを飲み物で流し込んで、イルカショーを待つ。