【n.p.l】この想いを声に【l.n.t.n】 (ページ26)

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26.実感してきた時ページ26

“思ったんだけどさ”と前置きして話を変える。

「A、最近ちょっと声出るようになってない？」

ガラガラに掠れた声である事に変わりはないが、声量は以前よりも出てきたような気がする。本人は自覚が無かったようで、首を傾げて喉を触る。

「あ゛ぁぁ」

試しに、と出した声はやっぱりガラガラ声だったが、確かに声は出てきた。
しかしちゃんとした治療もせずに声を出すのは喉に悪そうで、“無理しない方いいよ”と言って止めさせる。

「治療する気にはなったらしいけど、あれからどうなん？」

『まだ病院には行けてないです。とりあえず、夏休み中に一度行ってみようかなって親と話しました』

夏休みならそう遠くはない。大丈夫そうだなと少し安心して、Aの母親との話を思い出した。
Aが、声を出せなくなった理由。興味本位で聞いて良いかわからないが、気になってしまうところではある。丁度今、声についてを話題にしている。聞くなら今かもしれない。

「嫌じゃ無ければでいいんだけどさ」

おそるおそる、少し考えながら、ギリギリまで聞こうか迷う。

「あーやっぱ言わない方良いかな…」

首を傾げて俺の次の言葉を待っているAを見て、言う覚悟を決める。

「Aが、声が出なくなった理由、なんだけどさ。気になんのよ。…聞いていい？」

言いきった。言いきってしまった。Aは少し表情を曇らせる。あー、やっぱ嫌だよな。嫌なことは思い出したくないだろうし、簡単に人に話せるものでもないだろう。やっぱり聞くんじゃなかった。
少し俯いて、静かにペンを手に取って、メモに書き始めた。“それは出来ないです”とか“ごめんなさい”とかなんだろうなと思いながら向けられたメモを見てみる。

『少し長くなるので、待っててください』

「……え、ほんとに？話してくれんの？」

自分から聞いておいて言うのもなんだが、まさか本当に話してくれるとは思わなかった。小さく頷いてからもう一度メモに書きだすAを、しばらく待ち続けることにした。