【n.p.l】この想いを声に【l.n.t.n】 (ページ25)

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25.呼び方を変えた時ページ25

いつもの喫茶店で、今日は少し気分を変えて珈琲ではなく紅茶を頼んでみた。ここは珈琲だけでなく紅茶も美味い。
向かいには四宮。いつものカフェラテとパンケーキに加え、テーブルの中央には新作メニューのスフレ。二人で一緒に食べようと、一つしか頼んでいない。
四宮が興味津々でスフレを見つめ、イマドキの女子らしくスマホで写真を撮っている。

「さっき店員さんが言ってたんだけどさ、このスフレってやつ、喫茶店で出してる所あんま無いんだって」

感心したように頷きながら呑気にスフレの写り映えを確認している四宮。今から俺が言う言葉にどんな反応をするかなんとなく予想がつくが、ちょっと言葉を溜めて言ってみる。

「なんか作り置きが出来ないんだって。時間が経つとすぐしぼんじゃうらしいから、早く食った方が良いよ」

それを聞いてあたふたしながらスプーンを用意する様子が本当に予想通りで、鼻で笑ってしまう。スフレに穴をあけ、中のバニラをすくって口に運ぶ。美味しさに顔を綻ばせつつ、メモ帳とペンを手に取って文章を書いていく。

『蘭汰さんも食べて良いですからね』

ここから半分は私、というようにスフレをスプーンで半分に分け、そのまま二口目に入る。俺も食べようとスプーンを取り出し、生地とソースをからめて口に入れる。熱々のスフレが口の中で溶け、甘さが広がる。

「うまー。これめっちゃ美味い」

うまいうまいと同じ言葉を繰り返してすぐさま二口目、三口目とスプーンが止まらない。紅茶を飲んでふぅと一息つき、ここに来た時に四宮に訊こうとしたことを思い出した。

「あのさ四宮。……Aって呼んで良い？」

きょとんとしつつもすぐに頷いてきて、俺だけが妙に遠慮していたのかもしれないと小さくため息をついた。何か良い訳をしたくなって色々考えてみたが何も思いつかない。

「なんとなくね。なんとなく名前で呼ぼうかなと思ったんよ。ほら、Aって俺の事名前で呼ぶし」

後になって思いついた良い訳は理由になっているのかもわからない。急に名前で呼ぼうかなと思っただけだから、なんとなくで合っているのだろうけど。何も話すことがなくなって、お互い黙ったまま食事を続ける。
この空気がたまにどうすればいいかわからなくなって困るんだよなぁ、と考えながらスフレを口に入れた。