【n.p.l】この想いを声に【l.n.t.n】 (ページ19)

今日:13 hit、昨日:3 hit、合計:36,737 hit

19.事情を聞いた時ページ19

公園に着いてすぐに、四宮を街灯に近いベンチに座らせる。“今はこっちの方が見やすいから”と言ってスマホでメモアプリを開いて渡した。予測変換が怖いが、最近は特に問題なかった筈。

四宮が小さくお辞儀をしてキーボードを操作している間、俺は何も言わずに待っていた。手癖のせいでじっと待てないので、持ちっぱなしのレンタル袋を揺らして中のDVDを動かす。
しばらくして差し出されたスマホの光に少し目を細めつつ、文章を最後まで読んだ。

『お母さんと、今後の治療の事で喧嘩になったんです。
最初は普通に話していたんですけど、段々お母さんが不機嫌になってきたんです。
私が何か余計なことをしたかなと思って謝ったんですが、余計怒らせてしまったみたいでした』

「余計怒らせた…？それって、普通に謝ったら怒られたん？」

四宮はパラパラとメモ帳をめくると、母親との会話らしき文章を見せてきた。
『私は今すぐじゃなくても良いよお金もかかるし』
『ごめん、何か怒らせること言った？』
『別にや』
おそらく、治療費を考えて今すぐに治さなくても良いという四宮の意見に何かを思った母親が不機嫌になり、謝った後…と考えていると、書いている途中で終わった文章を見つけた。

「この“別にや”って何？」

『お母さんに「治す気がないんじゃないの」って言われて、別にやる気がない訳じゃないって書きたかったんです。でも、書いてる途中で「そうやってうじうじしてるから声が出なくなったんでしょ」って言われて、それが嫌で出てきちゃったんです。』

少し考え込んで頭の中を整理する。
四宮は金銭的に遠慮をして、ゆっくり治療できればいいという意見を確かに伝えたはずだ。その後母親が不機嫌になる理由が分からない。

「四宮のお母さんって、どんな人？」

『ちょっと厳しい人です。お父さんはそんなことないんですけどね』

それを聞いて何となく分かってきた気がする。おそらくだが、母親は自分の意見を押し付けたいだけなんだ。ただ、それは自分に同意してほしいというだけ。しっかり自分の気持ちを伝えればきっと理解してくれるだろう。

「やっぱもう一度お母さんと話してみな？最後まで思ってること伝えたら良いよ」

静かに頷く四宮を見て、もう大丈夫かなと立ち上がる。顔を上げると、誰かが来るのが見えた。

「……A！こんな所にいたの！？」

四宮の母親らしき人が、こちらを睨んでいた。