彼女が俺に恋する理由（仮）【外見至上主義／翔瑠】 (ページ3)

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裏庭の噂声ページ3

Aと恋仲になっても普段の生活はそれほど変わらなかった。週に1、2日、放課後の道のりを並んで歩く、ただそれだけ。初めこそ気まずく感じることもあったが、今では割と楽しみな日課になりつつある。
　趣味も何もかすりもしないAの話は、俺にとって新鮮な世界だった。彼女もまた、俺の話を目を輝かせ聴いてくれる。それが純粋に嬉しい。

　俺がAに話すのは、バーンナックル、とりわけバスコの話題が多かった。そう、バスコ。俺は今悩んでいる。Aと帰る時間の分、バスコ達との時間が削られている。色恋沙汰には疎い奴らでも、最近俺の付き合いが悪いことには気づきつつあるかもしれない。
　別に、恋人ができたこと自体を隠したいわけではないのだ──それが、訝しむところのない、本当の恋人同士であったのならば。
　改めて脳裏に浮かんだ親友の顔に、俺は打ち明ける決心をした。

* * * * * *

「彼女！？翔瑠にか！！」
「待てバスコ、声がデカいって！しーっ！」
「すまない！翔瑠！！」

　早速翌日の昼休み。教室から離れた裏庭の隅で、俺はバスコにだけAのことを話した。まぁ、いつも以上の大声のおかげで、他の生徒にも聞こえてしまった気もするが。

「とてもめでたいことじゃないか！どうして皆には内緒なんだ？」
「あー……恥ずかしがり屋な子でさ、ほら、皆いい奴らだけど、ちょっとデリカシーがないっていうか、大勢で押しかけたりでもしたら申し訳ないっつーか」
「なるほど！わかった！」

　手放しで喜んでくれる親友に、少しの罪悪感を覚える。けど、嘘はついてないからな、それを超す理由が他にあるだけで。
　結婚式では是非スピーチをさせてくれ、などとあれこれ進んでいく話をぼんやり聞いている時だった。校舎の向こうから話し声が聞こえた。

「つーか、アイツ最近偉そうに反抗してくるんだけど」
「あー、A？なんかアイツ彼氏出来たらしいよ」
「は？あんだけ調子乗ってた奴が？」
「建築学科の、ヒゲの隣の耳の奴だって噂。一緒に帰るとこ見たとか」
「何それー、結局オトコに頼るしか能が無いのな」
「つーか、どうせならつよーいヒゲのほうにしときゃいいのにな、マジ小者感ww」
「ウケる」

　今の声が、妄想でうわの空のバスコの耳に届かなくて本当によかった──やはり利用されていたのかと失望する自分を、Aを守って戦えない自分を見られなくて本当によかった。

　沈んだ醜い心とは裏腹に、空はどこまでも澄んでいた。